千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
誰かに見せる訳でもなく、自分だけの記録だった料理の写真。少しはおしゃれに、良く見えるように盛り付けを彼女なりに研究している事は司には秘密だった。
世の中の手料理関連のインフルエンサーのような現実味が薄れているほどの凝った事はしていないが家庭的な、千代子なりの工夫は凝らしている。
そんなやり取りをしている内に司から一つ、依頼をされる。
また週末の、今度は土曜の午前中。
部屋に来て、一緒にあの積み重なっていた段ボールの中の荷物を開封して欲しい、との依頼。もちろん、司には大きな借りがある千代子。
あの料亭でのディナー、そして司の部屋で年甲斐も無く泣いてしまい彼を酷く困らせてしまった挙句に話まで聞いて貰ってしまった。
気まずさはまだある、けれど。
千代子は司からの依頼を了承する。
とんとん、と指先で返信を打っていると司から「ちよちゃん製のランチも一緒にお願いしたいんだけど」と先日送った軽いランチプレートの内容をなぞらえているメッセージが先に届く。
それくらいなら千代子もそこまで気後れせずに用意が出来る。
供にしたディナーの席で普段の司はテイクアウトが多いと言っていたのできっと濃い味付けに疲れているのかもしれない。千代子も働いていた時分、既製品にうんざりしてしまっていた時期があったのでその申し出にも納得するが本当に司はそれで良いのだろうか、と疑問がわく。
自分が作る家庭料理を誰かにしっかりと振る舞った事はない。
この生活になって冷蔵庫の中にある物を余らせないよう、無駄にしないようにやりくりはしてきていたが……司のような人に振る舞っていいのだろうか、とまた悶々と悩み始めそうになる。
それでも既製品の濃さよりは、と千代子は自分の経験を思い出すと気を持ち直して何か他にも食べたい物はあるか司に問いかけたがそこで返信が途絶えてしまった。
また司の手が空いている時にでも返って来るだろう、と千代子は軽く考えてどんなランチにするか幾つか頭の中で候補をあげる。司に送った写真の通りのレシピにするなら主食は洋風炊き込みご飯――しかし、あのまっさらな部屋にはたして炊飯器はあるのだろうか。自炊をしていないようだった司の話を冷静に思い返せばそこは近所の老舗パン屋さんで美味しいバゲットを一本、調達してきた方が良いかもしれない。
一応、ご飯そのものは食べているだろうが炊いたご飯を丸ごと持って行くのはちょっと、どうなんだろうか。
それに司は身長が高く、筋肉もありそう。
184センチ、と聞いているのでごく平均的な身長と体重の自分とは一日で消費するカロリーも違うだろうからいったい、どれくらい食べるのか。司については知らない事ばかりだった。
(そう言えば司さんってやっぱり会社勤めなのかな)
そう言った所も聞けていないがまあ、号泣しながら打ち明けた自分とは全然違うしっかりした男性にあまりずけずけと踏み込んだプライベートを聞くのも良くない。司が教えてくれる気になったら、でいい。