千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
第3話 幼い恋
「よいしょ、っと」
カジュアルなベージュのワイドパンツにオフホワイトのリブ素材の長袖のボートネック。その袖をまくり、千代子は司の部屋で開封作業を進めていた。
キッチンの近くにあった段ボール箱を開け、枚数は多くは無かったが中に入っていた皿や緩衝材を出して司に聞いていた通りにオープンタイプの食器棚に丁寧に乗せていく。
既にいくつかのグラスはその棚に出ていたが本当にそれだけで、調理や食事に必要な物の一切が全く引っ越し当初から取り出されていなかったのだと知る。
(このタイプの棚って憧れだったんだよね)
置き場所は大まかにしか司からは言われていなかったので並べ方は千代子のセンス次第。何枚か取り出した皿を並べてはうーんと唸りながら少し遠目からの見栄えを意識して作業を続ける。
しかし、長く一人暮らしだったのか司が揃えている食器の大半は二枚ずつ、そもそも全体的な枚数も少なかった。
複数名の来客すら想定していないような、ごく少ないシンプルな白い食器。
それでも今日の千代子はこのキッチンでランチを提供する事になっていたのでどの皿を使おうかな、と考えなが取り出していた。
「そっちの進捗はどう?」
「七割って所で峠は越えました。あとは段ボールとかケースを片付けるのが大半ですね」
司さんの方はどうですか?と千代子に問われた司は反らすように少し視線をフローリングへと移した。どうやらあまり進んでいないらしい。
分かりやすい仕草をした司にふふ、と笑う千代子。少し眉尻を下げて視線を上げた司は整い始めているキッチンを眺める。
全体的な部屋の色合いに見合った落ち着いたオフホワイトのカウンターキッチン。大理石の作業スペースと木目の美しいカウンターテーブルが一体となっている場所に今、千代子が立っている。
そしてそのカウンターテーブルには訪れる前に用意してきてくれたらしい今日のランチの食材が入った袋が置かれており、リビングのソファーのそばにはトートバッグが一つ、置いてある。
「ランチの用意はダイニングテーブルの方で良いですか?」
「うん、お願い」
しかしそのダイニングテーブル――少し大きいサイズの二人掛け用のそれは千代子が初めて訪れた日の夜には存在していなかった。
千代子もこれだけ未開封の荷物があるくらいだから本当に引っ越してきたばかりで家具の購入や搬入が今になってしまったのかもしれない、と解釈していたが実際は司が急遽購入した物だった。