千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
カウンターテーブルで並んで座っても良いがやはり千代子とは向き合って食事がしたい。
たったそれだけの為に購入を決めてしまった司に後悔など微塵もなかった。
「ちよちゃんに進捗を聞いておきながら私の方はまだ半分……本を出すと駄目だね、つい立ち読みしちゃって」
「よく私もやります」
笑う千代子は話をしながらもちゃんと手を動かしてたので司もいい加減、油を売っていないで書斎兼寝室に戻ろうとするがその前に、と立ち止まる。
「粗方片付いたらそのままお昼、お願いしても良い?」
「はい。いろいろと勝手に使っちゃいますけど」
「足りない道具があったらごめん」
「全然、私の部屋なんて小さいから……」
持てるだけの物で最大限活用しなければならない生活を送っている千代子。彼女にとってこのキッチンは広々としているだけでもう、十分だった。
フラットなビルトインのIHコンロだって三口だ。鍋を置いて、フライパンを置いてもまだ一つ残っている。
「でも司さん、本当にあのランチプレートの感じで良かったんですか?」
「あれこれ考えていたんだけど、いざとなったら纏まらなくなっちゃって。ここはちよちゃんに全部任せてしまった方がいいかな、と」
恥ずかしそうに笑う司の表情に少しだけ千代子が伏し目がちになる。
「あの……もし変な物が出てきても笑わないでくださいね」
「と、言うと」
「最近、ちょっと凝っている物があるので」
「それは気になるけど」
完成してからのお楽しみだね、と言って司はまたまだ荷解きが半分しか終わっていないと言う私室の方へ戻っていく。いつまでも“まるで同棲を始めたばかりの恋人同士”のような穏やかな立ち話をしていても荷物は勝手に片付いてくれない。
千代子も残りの作業を終わらせ、昼食づくりに専念しようと手を進める。
そんな千代子の姿を伺うように振り向いた司の口元が固く結ばれ、表情は厳しくなる。
こんなに優しくて良い子な“ちよちゃん”を傷つけ、飼い殺しにした企業とは一体どこだろうか。
(喰らい、潰してしまおうか)