千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
半玉のキャベツなどは刻んでコールスローにする物とポトフにする物とで一回で切り分ける。人参や他の食材も同様に多くの道具を使わず最短の工程で済ませられるようによく考えた。自宅の小さなアパートで培ったとてもコンパクトな作業の動線は大きく物を広げる事も無く、手元で全てを綺麗に完成させてしまう。
嫌いな物は無いと言う司だったので千代子も気兼ねなく調理を進めながら自分で棚に並べた皿の中からいくつかをピックアップする。
広く開放的なキッチンが使える喜びを一人、噛みしめる。
司は殆ど使っていないようだったがまだつい最近、買ったばかりのように真新しく見える最低限のボウルやフライパンなどの調理器具もあり、今のところ不自由なく支度が進んでいる。
(でも、炊飯器が見当たらなかったな……)
やはり司の部屋には存在していなかった炊飯器。
鍋で炊けなくはないが慣れるまでが難しい。
ご飯ものをメニューには入れていなかったのでとりあえず大丈夫だったのだが普段の司は本当に既製品が多いのだと、調味料を探す為に開けさせてもらった冷蔵庫内の状況を見た千代子は思う。
それは人それぞれだから。自分もどうこう言えない暮らしをしているけれど今日くらいは先日のお礼とお詫びのほんの端っこくらいにはなるだろう、と手を進める。
そして一つ、千代子が最後に作り始めたもの。
バゲットを買ってきても良かったけれど予定を変更した。一度、自宅で作ってみたら美味しかったものを司にも食べてみて欲しくてボウルに卵を割り入れ、混ぜて、レシピ通りの量の牛乳を注ぐ。
使った事のないIHコンロの火加減に奮闘しつつも何とか自分の中の理想通りの仕上がりになっていく料理たち。これなら大丈夫、と最後に一緒に焼いた目玉焼きを乗せ、ランチプレートが完成する。
「司さん、お昼の支度が出来ましたよ」
開けっ放しになっているドアから姿を覗かせた千代子の姿に司は危うく手にしていた厚みのある本を足元に落としそうになった。