千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
昼を回った午後三時。
明日のピクニックの為に、と千代子はほんのりと薄化粧をして近所のスーパーマーケットに向かう。そこはどこにでもあるようなごく一般的な購買層に向けた大衆スーパーだった。アパートから少し行った先は再開発が進んでおり、中層や高層マンションの住民向けのオシャレで高品質な商品が並んでいるスーパーも新たに出店していたが今の千代子のお財布事情にとっては高嶺の花。
それでも、今日はどうしても欲しい物がありいつものスーパーとは反対の再開発地域の方へと足を延ばす。
夜、眠れずにベッドの中で端末を片手にネット検索していた中で出て来たのはそこのスーパーが独自に配合をしたホットケーキミックス。ホットケーキを焼くのが趣味となっている千代子はお散歩と気分転換がてら、それだけでも買おうと考えていた。
いつもの慣れた道を通り越して大通りを歩いて行けばオシャレな外観のスーパーマーケットが現れる。中に入ると千代子の考えの通りにちょっと特別な日にしか手が出せないような価格の素材が並んでいる棚があった。それを薄目で流し見て、製菓コーナーへ歩みを進める。今日はそれだけを買うつもりなのだから、と言う強い意志を持っていなければキラキラとした食材たちの誘惑に負けそうになる。
(小麦粉もちゃんと製菓用と製パン用が分けられているしやっぱりガスオーブン、欲しいなあ……)
スーパーのオリジナル商品だからなのか、わりと簡素なポリ袋に入っていたホットケーキ用の粉。これ、そのままラベルが貼っていない裏面を見たらなんかよくない白い粉だよね、と自分の拙い考えを鼻で笑いながら千代子はそれだけを持ってセルフレジの方で手早く会計を済ませた。
(だって白い粉、一袋だけだし)