千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
食事も終わり、残っていたアイスコーヒーを飲みながら他愛ない談笑をしていた二人。ふと、話を切り出した司の少し緊張感のある声に千代子は敏感に気づいた。
「私は今、いくつか管理を任されている会社の総合的な経営者と言うか……まあ、そんな事をしているんだけどご覧の通りの生活をしていてね。その傘下の、私が信頼して任せているビジネスパートナーが人材派遣会社を経営していて」
司は手にしていたグラスを置いて「家事代行サービス業とも提携しているから、ちよちゃんにはその大本の派遣会社に登録してもらって、この部屋の管理を任せたいんだ」と真剣な眼差しで伝える。
そんな司にやはり千代子の瞳は丸く、見開かれてしまった。
「えっと……その」
「ちよちゃんになら任せられると考えていたんだ。あまり、自宅に人を出入りさせる事が苦手なんだけどそれだと片付かないし……今日、少しだけちよちゃんの行動を見させて貰ったけど全くもって申し分ない」
「そんな……雇ってもらう、と言うことですか」
「そう。ちよちゃん、きっと色々焦ったりしてるんじゃないかと思って。来てくれる日や時間はちよちゃんに合わせて構わないし、昼間は私も空けているから基本的に一人で仕事が」
少し、俯いてしまう千代子。
「ごめん、ちょっと強引過ぎるよね。私は相手がちよちゃんだからっていつも距離感を忘れて……」
千代子は言葉が喉に詰まってしまったのか、小さく頭を横に振る。
「誰かに心配してもらうの、久しぶりで……」
「大切な事だし、すぐに返事をしてくれなくても私は構わないから」
「いえ、あの……」
――お願いします。
そう確かに言葉にした千代子。
その丸い瞳はやはりどこか泣きそうだったが、それでも声の中にはしっかりとした意思を持っている事が司には分かった。
そんな責任感の強さが反面、彼女の弱い部分になってしまっているのだろうか。全てを綺麗に全うしようとして、知らず知らずに無理が積み重なっていく。そうして周りも――本人すら深く傷ついてしまっている事に気が付けないで、壊れてしまう寸前でやっと気が付いて。