千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
「本当に、お願いして良い?」
「はい。私の方が雇ってもらうのにそんな」
「あまり難しく考えなくて大丈夫だよ。紙のパンフレットとかもあるみたいだから近い内に一緒に見て色々決めよっか」
そうして司は千代子を、雇う。
千代子の小さなアパートから歩いて通える距離、買い出しのスーパーもその範囲にある。
千代子の生活圏が全て、司の目が届く位置に集約されていく。
・・・
司とよく話し合った結果、まずは月水金の週三回のフルタイムで掃除や雑用、食事の買い出しと作り置きなどを行う事となった。司が仕事に出向いた後の九時から帰宅する前の五時。勿論、一時間の休憩時間も設けられている――と言うか、司にとってはそんなこと、本当にどうでもよかった。
好きな時に休憩して良いし、疲れたならそこのソファーでお昼寝でもして、食事も予算など考えずに千代子の好きな物を作って良い。
そうして決めた千代子の初出勤から今はちょうど半月ほど経過したとある平日の昼下がり。
「絶対に違うと思うんです」
「うん?どうしたの」
出退勤はネットで管理されているのでスマートフォンが一つあれば十分。事業所も都心――と言うかそもそも司の居るビル内にあり、松戸の管理している会社なのでどうとでもなる。
「だって、いくらなんでもこんな」
自由すぎます、と言う千代子。
その手にはフローリング用のワイパーが握られている。いきなり「今から帰るね。あと五分くらいで着くかな」と連絡をしてきた司。千代子はつい先ほどまで他の部屋で掃除機を掛けており、今は仕上げに拭いていた所だった。
「司さん、本当にこんな緩い感じでお給料をいただいてしまうのは」
「そう?ちよちゃんが来てくれてから私の部屋はいつでも清潔でとても暮らしやすいよ」
今日は千代子の出勤日の水曜。
なぜ平日の日中は不在の司が突然に帰宅し、ソファーに座ってのんびりと千代子の働く姿を眺めていたのかと言うと……眺めていたかったからだ。
今日はさほど立て込んだ案件も無く芝山に仕事を任せ、昼を過ぎたあたりで帰って来てしまった。
今までも時々、司はそうやって息抜きの為に早く上がる日を設けていたがあの再会した日もたまたまそんな日で、二人の偶然の行動が重なっていた。