千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
伯父の進は、強かった。
それは全てに於いて実父の、ヤクザと言えども人を率いていると言うのにまるで惰性で組織を動かしているような父、修の姿とは違っていた。
お陰で実家は“今川三兄弟”の中では一番構成員の少ない組だった。
(それとも、もしかしたらこの暗い世界にうんざりしていたのだろうか……今の私がそうであるように)
それは司には分りかねる事。
父親とは全く連絡を取っていない。
連合の代が二代から三代に変わると同時に直参の二次団体への昇格、瞬く間にまい進していく肉親ではない人。
わざわざ時間を作っては会いに来てくれ、何かと面倒を見てくれていた。
相当気に入られているんだな、と司自身も確かに感じていた頃に養子縁組の話が出たのだった。
ヤクザと言う業を持ちながらも時代の波に沿うよう形態を変えようと奔走していた伯父の姿を見ていたからか、嫌悪の中に僅かな憧れを抱いてしまうのは無理もない話だった。
強い者に惹かれるのはやはり、血なのだろうか。
「司さん、どうぞ」
俄かに思い出してしまった過去のこと。
アームレストに頬杖をついていたせいで眠いのかと思ったらしい千代子がタオルケットを差し出してくれる。
優しい子だ。
理由などない喧嘩を吹っ掛けられても司は伯父からの言い付けで手を出す事を必死に我慢し……そんな中でも手酷く、もはや喧嘩などではない一方的な暴行を受けた日の司をたまたま見つけたのが中学生だった千代子だった。
話をした回数は少なくても、小さな頃から地域の子供たちの集まりなどで互いに顔や素性もよく知った――家もたった数軒先の身近な近所の女の子だった千代子は今にも泣きそうな顔で手当てをしてくれた。
――司さんは何も悪い事をしていないのに、どうして。
通っていた高校側もそうだった。
ヤクザの息子を処分すれば何かと面倒な事になる。さっさと卒業をさせて、厄介払いをしてしまいたかったのだろうか――ちょっとした騒動にはなったが停学や休学処分にはならず、そして司だけが傷だらけで喧嘩を仕掛けて来た方は全員が無傷。手を出していない事など誰の目にも明白だった。
当時はまだ中学生と高校生の子供同士。年齢は少し離れていたがそれからは司を見かけると気軽に挨拶をし、にこにことしていた千代子。親からは関わるなとずっと言われていた筈なのに、怖い物知らずな子供時代。
あの何気ない笑顔に、どれだけ救われたか。
千代子が父親の転勤で引っ越してしまうと分かった時、ちょうど司も伯父から本家の子にならないか、と持ちかけられた。
それは『ヤクザの子はヤクザにしかなれない』と言う長い因習による理由とは若干違っており「お前にはいずれ俺の会社を継いで欲しくてよ。なんかデカくなり過ぎちまった。俺の側で暫く働いてりゃお前ならすぐにでもやれるさ」と言われ……極道の世界がどうの、と言うよりは経営者の面を当時から進は強調していた。