千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
欲しい物は買えたけれど。千代子はせっかくだから普段手を出さない価格の卵と牛乳も買っておけばよかったかな、と少ししょぼしょぼとしながら来た道を引き返す。そうして高品質志向なスーパーから退散して、最新の高層マンションの前のまだ整備されたばかりの綺麗な歩道を暫く歩いていた。
すると少し俯きがちになっていた千代子でも目を惹くような艶のある黒塗りのハイクラスの国産車がすぐそばで静かに停車する。
ドライバーと思しきダークスーツ姿の男性が進行方向左側、千代子が歩いている歩道に面した側の後部座席のドアを開けた。マンション用の車寄せスペースも千代子からは見えるがそこまでは入って行かないらしい。
それにしてもこの高層マンションに住んでいる人って本当にいるんだ、と千代子の純粋な驚きの瞳と黒塗りの車内から出てきた男性の瞳がおもむろに合ってしまった。
不躾にもじろじろと見てしまっていたのは千代子の方だったが降り立った男性は誰しもが目を惹いてしまうような整った顔立ちをしていた。髪も硬くなり過ぎない程度に綺麗にオールバックにしていてさっぱりと爽やかな雰囲気。なにより少し筋肉質にも見えるがバランスの良いすらりとした高い身長、纏っているスーツは量販店に売っているような吊るしではないオーダーだとすぐに分かった。
これこそ完璧な男、と言わんばかりの立ち姿。
そんな男性が自分の方をどこか訝しげに見ている事に気が付いた千代子は心の中でごめんなさい、と謝りながら早く通り過ぎてしまおうとビジネスバッグをドライバーから受け取っている男性の横を足早に抜けようとする。
「ちよちゃん?」