千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


「落ち着いた?」

 タオルから覗く目元や頬は未だ赤い。
 本当に体を冷やしてしまう、と今日の所はひと先ず千代子を自宅に帰……す前に、出しっぱなしになっている作りおきの料理を持って帰るように、千代子の好きなようにまとめさせる。
 それに彼女はまだ昼ご飯をとっていない筈。
 急かしはせずにとりあえず今日は家に戻って、と二人ともが急な展開を落ち着かせるようにおかずを詰め直したり、食器を片付けたり。

「こんな恰好だから下まで送ってあげられなくてごめんね」
「いえ、大丈夫です」

 そして「また明日」と、互いに挨拶を交わす。

・・・

「で、その幼馴染ちゃんは兄貴の彼女になった、と。しかもいきなり同棲。超大胆なオトコ、流石俺たちの兄貴……」
「そうともなれば(あね)さんになるんだろうか」

 翌日のオフィスには感慨深そうな松戸と芝山の声があった。
 司も二人だけにはすぐに打ち明けた。
 もしも千代子に何かあった時に頼れるのはこの二人以外に居なかったから。

「兄貴専属のカセーフさんのオシゴトどうします?もしウチの会社の範囲でやりたい仕事とかあれば登録そのままにしとけますけど。在宅系も今は色々あるし、家事をそのままお願いしちゃうなら細かくなっちゃってアレだけど前職が事務だから一件ごとの出来高制の……」

 よく口の回る松戸からの提案を聞いている司は溜まっていた書類の処理などをいつものように淡々と進める。と言うか、いつもより手が早い。

 二日、三日でこの変わりよう。
 まだまだ若いな、と歳上の芝山は思う。

 喜び勇んでマンションに帰って行ったと思えば翌日は機嫌が悪く、今日に至っては出勤の途中で一階のエントランスフロアにあるコーヒーショップに寄ったらしく、流行りの洒落たコーヒーの差し入れがあった。

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