千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
芝山が本家部屋付きの筆頭になったばかりの頃まで時はさかのぼる。
司がまだ高校三年生に進級したばかり、今川一族の本家に養子として迎えられた時。本家組長である今川進と親子盃を交わしていた、本来ならば上級幹部の芝山。ただ彼は面倒見が良く、非常にプライベートな組長宅での丁稚たちや出入りが許された若い衆の管理と屋敷の警備関係を一任されていた。
それからずっと、芝山は親代わりにはなれずとも司を歳の離れた弟のように可愛がっていた。本家組長が彼を養子に取る前から大学に進学させる手筈を整えていたのも知っており、それも納得の申し分のない頭の良さも見てきている。
司自身は自分がどういった気性を持ち合わせているのか後になって気が付いたのだろうが芝山は生活を共にしながら見守っていた。穏やかそうに見えるが元からの気質に混じる危険を孕んだ野心の片鱗も当時からあったのを見ている。
否が応でも司に流れているのは今川の血の強い闘争本能。
今はそれを自分で厳しくコントロールしているようで滅多に残酷な顔は見せず、そして本人もそんな自らの荒い部分を酷く嫌っているのを芝山は知っていた。
普段は自制心が強い司の心を動かしてくれる小倉千代子と言う女性。本当にどんな人物なのか気になりはするのだが。
「若、めでたい時に申し訳ないんですが一件気になる事が」
よくしゃべる松戸の言葉は軽く聞き流していたが芝山の少し落とした声のトーンに反応した司は書類を確認していた手を止める。
「松、例の監視カメラの映像を」
「あーアレっすか」
ちょっと待ってください、と松戸は自らのスマートフォンの画面を司に見せるよう差し出す。そこには一本の動画。写っている場所は人目に付きにくいフロアの隅の一画、それを見た司も眉を潜める。
「このビル内、どこにも死角など無えってのに」
「全フロア、ビルそのものが兄貴の庭なのに“三浦さん”はセキュリティルームが一つだとでも思ってンすかね」
「それでこの監視カメラの映像、か」
「ええ、なーんか“俺的に色々”と気になって芝山さんと相談してあの日の映像を追ったら退室直後にどっかに必至こいて電話掛けてて。相手は分からないッスけど……三浦さんより立場が上ともなれば相手は限られてきますね」
もっとも、兄貴をだまし討ちしようなんざ百年早いけどね、と松戸は言う。