千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
服を着せたまま、まだベッドには寝かさずに千代子を座らせていた司は長袖の黒いスウェットと中に着ていた肌着をひと息に脱いだ。
自分の正体は会社経営者でありながら、墨色の紋を背負った正真正銘の極道者である事を曝け出す。
肩や腕、胸元に掛かる暗い墨色の影を見た千代子の瞳は丸く……ならなかった。
「なんとなく分かっていました……いえ、きっと、そうなのかな、って。荷物を運んでくれた方々もどことなく、そんな感じだったから」
「ああ……」
松戸め、と司は思うが本当に千代子は肩や背中に墨の入った自分の姿が怖くないのだろうか、とあまりにもすんなりと受け入れようとしてくれている素振りに心配になってしまう。
「大丈夫。司さんは、司さんだから」
昔から、ずっと変わらない千代子。
こんなに沢山、痛くなかったんですか?と手を伸ばす千代子が司の皮膚の、半袖のふちを指先でなぞる。
「っ、ちよちゃん……」
司の背中にぞわ、と欲が走った。
指の腹ですりすりと彫り物を撫でる千代子の手を掴んで押し倒し、覆いかぶさりたい衝動をなんとか抑える。
ただ腕を撫でられただけなのに、とてつもない欲がわいてしまった。
「ちよちゃん、ありがとう。でも本当に大丈夫?怖くない?」
「ふふ、大丈夫ですよ」
お互いに離れ離れになっていた間、司がどのように生きて来たのか千代子は知らない。
それでも今、彼がどのように生きているのかは知っている。昔から変わっていない、やさしい人なのだと。
だから、もしかしたらと考えていたことがその通りだっただけ。
ただ、それだけだった。