千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
翌朝、案の定そのまま司のベッドの中で朝を迎えてもなかなか起きることが出来なかった千代子。その代わりにキッチンで軽い朝食の支度をしていた司はやっとぺたぺたと素足で歩いて出て来た姿に「おはよう……体は大丈夫?」と心配しながら声を掛ける。
少し掠れているような声で「おはようございます」と返す千代子がソファーの下で脱ぎっぱなしになって放られていた自分のルームシューズを発見し、動かない。
一応、部屋着のワンピースを着ていた千代子。昨夜の行いのせいでどこか体の調子が悪いのかと焦る司だったがよいしょ、とそれをちゃんと屈んで揃えてから履くと「シャワー浴びて来ますね」と恥ずかしそうにはにかみながらぱたぱたと自室へ着替えを取りに行ってしまった。そんな彼女の大丈夫そうな姿を見た司は一先ず、安堵する。
しかし、パウダールームで自分の素肌を見た千代子は瞳を丸くさせ、頬を真っ赤にして身もだえていた。
(私、本当に司さんと……)
このふわふわとした気持ちをなんと言葉にしたらいいか見当たらないがきっとこれは嬉しいとか、幸せとか、切ないとか。色んな気持ちが心を撫でて……撫で……。
「~~っ!!」
やっぱり恥ずかしい、と千代子は気分を切り替えるためにそそくさとバスルームへと入っていった。
・・・
「御苦労様です」
夜の都内、赤坂にあるとある料亭の廊下。
司は自分にかしずくダークスーツ姿の男達の間を芝山を従えるようにして歩き、一番奥深い和室へと入る。格調高い調度品のある落ち着いた和室の上座と下座、一枚ずつしか無い座布団の枚数に細める眼光は鋭く、千代子に見せる優しさや情熱などまるで存在していないかのように冷淡さをたたえていた。
それは千代子との仲も、以前よりももっと近く……毎朝、千代子に「行ってらっしゃい」と送り出して貰うようになったある日の昼の時刻。
連合本部からの呼び出しです、と連絡を受けた芝山の言葉にオフィスにいた司は「こんな急に」と訝しげな表情を隠さずに仕事をしていた手を止める。
松戸は今、自分の事業の方の会議でビル内にはいるものの与えてある執務室で画面越しに会議に参加している最中。普段、ろくに自分の執務室に居らず、司の執務室に入り浸っているがそこは一応、社長業。