千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
第6話 衝動

 ようやく千代子も司との生活に慣れて来た。
 司が帰宅時間をあらかじめ伝えておけばそれの通りに千代子も支度をして待っていたり、遅い場合にはもう先に自らの部屋で就寝している。
 そして、もしも何かあった時の為にと千代子には丁寧に説明をして彼女のバッグの中にセキュリティタグを入れても良いか了承を取ったのは昨夜の事だった。

 今は翌日の司のオフィス、午後三時を回ったあたり。

「束縛し過ぎているとは思うんだが」
「そこまで悩んでるなら……でも、流石に今は持たせておいた方が良いッスね」
「ああ……」

 それより兄貴、今日はもう帰って彼女とゆっくりしたら?と松戸が提案する。それを聞いていた芝山も「後は俺らに任せて」と疲れている様子の司に以前にも勧めたように帰った方がいい、と言う。
 未だ見ぬ司の幼馴染である『小倉千代子』と言う女性がどのような姿かたちをしているのか、二人は知らなかった。司も紹介するつもりではあったのだがどうにもタイミングが合わない。

 先日、連合会長の中津川から急に個人的に呼び出された後からだ。
 なにやら“コト”が動き出している。

 司が動かしているお金の額は同世代の若きベンチャー企業の社長たちよりも数段上。それらは義父の進から継いだ物ではあったが司の冷静な手腕の成果も勿論、大きい。

 そんな司の二人の部下、芝山と松戸はいつも司の様子をつぶさに観察し、時にオーバーワークにならないか心配をしながらも見守っていた。今は彼を自宅で待ってくれている優しい女性がいる。それならもうさっさと帰って甘えでもして英気を養ってきて欲しいのだ。

「写真とか無いンすか?前に兄貴が俺の舎弟にやらせた盗撮じゃない方。俺の所に登録した顔、あれって“どこにも存在しない女”ですよね。まあ、なんかの拍子に流出~なんて事も無くは無い話だから」
「そう言いつつ、若は松に見せたくないだけかもしれん」
「えー!!じゃあ芝山さん見た事あるンすか?!」
「無い」

 やっぱり、と言う松戸だったが「ほら兄貴、帰る支度して」と促す。芝山も控えのドライバーを呼び出し、あっと言う間に「また明日」と二人は司を見送ってしまった。

「で、芝山さん。今川三兄弟の次男坊の息子、兄貴の従兄(いとこ)にあたる……」

 ふつ、とスイッチが切れたように松戸の表情と声色が厳しい物に変わる。

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