千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 そう言えば今日、千代子は買い物に――大きな本屋に行きたいから色々と都内を移動をしていると聞いていた。今頃、買い物ついでにランチでもしているのだろうな、とセキュリティタグの位置情報を探るのではなく、通知が来ているメッセージを確認する。休憩に入った喫茶店のオムライスとプリンの画像と店名が直接、千代子から送られていた。

(彼女はどこにでもいる女性?いや、違う)

 司にとっての千代子は何よりも代えがたい大切な人だった。
 だから、今は千代子にも負担を掛けているがコトが終われば二人だけ……芝山と松戸は来なくていいと言っても付いてきそうではあったが、そうやってどこか彼女が行きたい場所にでも行って、自由に暮らすのも良いかもしれない。

 犯罪じみた手荒な事もしてはきたが相手もまた同じ穴の狢。
 司は、一般人には決して手を出していない。
 一般人、カタギと言うその大きな括りの中には千代子がいるのだから。もし自分が大きく法を犯し、巡り巡って千代子を悲しませる事になったら……それはつらい。

 ――司さんは司さんですから。

 深く、濃い墨の入った体を曝け出しても受け入れてくれた千代子。心のどこかでいつも彼女を求めた末に背に刺した巴御前の武者絵を綺麗だと言ってくれた。

 千代子からの何気ないメッセージに返信をし、司はまた自分の仕事に取り掛かるもここ最近、どこか無理をしている事に彼自身も……芝山も気づけないでいた。
 それは自らを的確にコントロールできていない、と言う事でもあった。

 そしてそれは一番気の許せる存在となった千代子に、無意識に向けられてしまう。

 ・・・

 その週の日曜日の夜、二人の間で事件が起きた。

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