千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 夕食後の家事もひとしきり終え、司から先にどうぞと勧められて入浴を済ませた千代子がのんびりとリビングのソファーで雑誌のページを捲っていた夜のひととき。

 先日、本屋に行ってくると言った時に買って来た料理雑誌。気分転換の散歩を兼ねていた買い物。
 食事代や千代子自身が必要な物の購入費も二人で暮らす為に作った口座から崩して構わないと伝えていたが司は入金をするばかりで出金の確認はあまりしていない。
 その口座には千代子が普段この部屋を清潔に、住み心地の良い場所にしてくれている報酬も含まれている。いわゆるちょっとした『お小遣い』の名目ではきっと千代子は受け取らない。日々の食費など足りているかどうか聞いた時に「十分すぎます、大丈夫です」と目を丸くさせていたので足りてはいるのだろうが、と風呂から上がってきた司はソファーに座って熱心に雑誌を読んでいる千代子の姿を眺める。

 ただ彼女はしっかり髪を乾かさないと「風邪を引きますよ」と怒るので水を飲みに戻っただけでもう一度、パウダールームに行って髪を乾かしてからリビングに戻ると座っている千代子の真後ろから何読んでるの?と覗き込む。

「梅雨どきのさっぱりおかず特集、か」
「ネットで検索するのも良いんですが、こういうのって何度も繰り返し読むんです。それで今日の献立はどうしようかな、とか考えて……司さんも気になるレシピがあったら」

 今の千代子でも十分なレパートリーを持っているが彼女には探求心や向上心がちゃんと備わっている。食事は基本的に平日は軽めな朝食と夕飯だけしか共に出来ないが毎日、よく考えてくれている。
 自分の事を、大切に想ってくれている。

 しかしーー司の落とした視線、料理雑誌を捲っている千代子の手元には勿論、柔らかな胸のふくらみがあった。首回りの広いゆったりとしたワンピースタイプの寝間着はいつもと変わらない千代子の就寝スタイルだが髪がまとめられている為、しなやかな首筋が司の目下にさらされていた。

 急に、何故だろうか。司は自分が千代子に抱いている欲がにわかに、まるで沸騰するように沸き立ってしまうのを感じる。初めて千代子と密に夜を過ごした日からベッドを共にする頻度と言う物は彼女の体の事を考えて間を空けていたが……今、その首筋が欲しくなってしまった。

「これなんてどうでしょう。いつも甘い味つけな、の……っ」

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