千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
問いかけざまに見上げた千代子のフェイスラインに手を掛け、動きを封じる。
何が起きたのか分からずに固まってしまった千代子の首筋にあろうことか体を屈め、司は顔をうずめてしまう。
「つ、か……さ、さん……」
いつもだったら寝室が分けられている為に「今日は一緒に」と夜を共に過ごしたい時は司から伺ってくれていた。それに恋人同士の甘い戯れだってするようにはなったけれど、今はそんな時のスキンシップのラインを既に越えている。
独特な気配に歯が立てられているのかもしれない、と千代子は肩をすくめる。キスではなくて、司はきっと噛んで……ぶる、と身震いをした拍子に雑誌は膝から滑り落ちてしまった。
「ん、んん……っ」
ひく、ひく、と不安定な呼吸に千代子の胸が上下する。
「ちよちゃん可愛い」
耳のすぐそばで聞かされる甘い言葉。
何度も噛むように、そしてじわりと吸い上げられて……今ここで司を止めないと明日から数日、着る服が限られてしまう。
「司さん駄目、首にあと、が」
「欲しい?」
司の様子が明らかにおかしい。
たまに甘えているのか頬が熱くなるような触れ合いはあってもどんな時でも紳士的で、大切に扱ってくれていたのに。
「や、め……」
このあとどうされてしまうのか、想像出来てしまう。
やっと満足したのか首筋から離れた司と乱れた呼吸を隠すように口元に手の甲を当てて落ち着こうとしている千代子だったが司に「おいで」と言われて拒めるような意識と体の状態ではなかった。
ベッドの上で司の筋肉質な硬い腕を掴んでいた千代子の指先に力が入る。
愛されているのではなく弄ぶように、まるで物のように扱われているようで……寝巻きのワンピースやレギンス、下着までを剥ぎ取るように脱がされた所で千代子はついに涙を滲ませる。
「やめて……お願い」
怖い、と絞り出された切実な声に司も我に返ったのか慌てて手を引く。自分の体の下にあったのは仰向けで眼尻から細く涙をこぼしている千代子。その姿を認識した司は自分が今、彼女に何をしようとしていたのか分からなくなる。
大切な人を、こんな、自分の強い欲望と衝動に任せて抱こうとしたなんて、と。いくら千代子が普段から温かく寛容だったとしてもこんな真似、絶対に許されない。
「ごめん、本当にごめん……私、どうかしてる」
素肌の千代子に掛けてあげられる物も言葉も無い。
ゆっくりと、一人で起き上がる千代子が体を隠すような仕草をしたのがつらかった。いや、つらくて怖かったのは千代子の方だ。