千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
第7話 襲っちゃうかも
季節は梅雨の六月を過ぎ、初夏を迎えようとしていた。
千代子は未だ、司には秘密にしていたが松戸と連絡を取り合っており、在宅で何か軽い仕事が出来ないかと相談し、一件単位での固定報酬制のデータ入力の仕事を在宅で始めていた。
色々と考えが纏まった後に司に少し仕事をしたいと持ちかけてみれば司も「松戸の所なら」と安心した様子だったのを覚えている。
午前中、司が仕事に出てからの三、四時間ほどを週三日。まだ仕事と表現するにはごく小さい単位ではあったが松戸からもしっかり慣れてきてから仕事量は増やした方が良いよ、と言われている。
それを機に、司の書斎にある物と同じメーカーの一回り小さいデスクと千代子の体に合ったビジネスチェアが購入された。どう考えたって空いた時間で仕事をする千代子が得られる報酬とそれらの金額は全く釣り合わない。
しかし家で使う大きな物の購入については千代子も司が好きでやっている事なのでしょうがないかな、とお礼を言って受け入れていた。
なにより座り心地が最高なのとデスクも昇降式で使いやすく、もう数時間伸ばして仕事をしても大丈夫そうではあったが焦りはよくないので暫くはこのままでいようと思い留まる程だった。
昼を回って仕事が片付いた千代子は冷蔵庫の中に残っている物をチェックしてから買い物に出ようかを決める。
昨日はお肉が多かったから今日はさっぱりと温野菜をメインに、とすっかり“同棲している彼女”と言うよりは奥さんになってしまっている事に千代子自身は気づいていない。あくまでも司の部屋にお邪魔している、と自分では思っていた。
誰がどう見たって、奥さんだった。
そして司も司で本当に外食をしなくなって久しい。
最後に彼が芝山に仕出しを頼んだのはいつだったろうか。
ただ、司には表も裏も立場と言う物がある為に一緒に暮らすようになって三か月になろうとしている今でもデートと言うものを一度もしたことがなかった。
それをせがむような千代子では無かったがたまに買い物がてら散歩に出る彼女は移り行く都会のあちらこちらにある緑の景色を司とも共有したいと思っていた。写真を撮って送るだけでは少し、味気ない。
部屋の中だけだとしても何か二人で楽しく過ごせる良い方法はないかな、と千代子の心にも色々と考えられる余裕が少しずつ訪れて来ていた頃。
司の方はと言うと今日も変わらずに表の仕事を全うしていた。
「親父が嗅ぎつけた?」
「こればかりは本当に俺の不注意です。俺や松以外に若のそばにいる方の存在をつい……親っさんの話術にまんまとハメられました」
「あの親父相手には無理だろう。きっと私でも同じ結果になる」
「時期的に本部の総会の席で親っさんとはご一緒になるかと思いますがその時は上手く誤魔化して頂きたいです……」
土下座しそうな芝山に「いつか親父にも彼女を紹介しなければならない日が近くなっただけだよ」と司はフォローする。しかしその前に、芝山と松戸にも正式に紹介しなくてはならない。
どこか安全な場所で席を、とセキュリティを考えれば自分の庭であるこのビルが一番安全ではあるがそれは……どうなのだろうか。
「そうか、親父の料亭か」