千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
少し屈んで、優しく問いかけてくれる千代子。
「痛かったり、怖い事は苦手です。それでも司さんがそこまで落ち込んでしまっていると私も寂しいんですよ」
「ちよちゃん……」
「あんまり構ってくれないと今度は私が司さんを襲っちゃうかも」
女性に言わせるセリフじゃない。
いつも千代子の前では穏やかな表情をしている司も眉を少し寄せ、あの日の事をまた、悔やむ。
よいしょ、と千代子が乗り上げるようにソファーに片膝をつけば一瞬ぐっと沈み込み、唇に柔らかくて温かい……暫く避けていた質感がもたらされる。
触れ合うだけのキスをしながら自分よりも一回り大きい体に手を添え、どうしても動けないでいる司を千代子は真っ直ぐに見つめる。
「好き……優しいあなたが好きです」
ふふ、と恥ずかしそうにしている千代子。
悲しい顔をしないでください、と言う声と共に千代子の両手がそっと司の輪郭を包み込んでもう一度、ちゅ、と短く口づけを落とす。彼女の親愛の行為はあまりにも優しく、司もその愛情を返すように千代子のすべすべとしたなめらかな頬にやっと触れる。
・・・
大人同士の夜のたわむれも本当に久しぶりだったのが今夜の千代子はとても積極的で、司の方が遠慮をしてしまい所作がどうしてもぎこちなくなっていた。
互いにまだ寝間着のままで横になりながらも千代子は司の体にすがるようにぎゅっと抱きついたまま。
司は千代子が本当に自分をまた以前のように受け入れてくれた事に安堵しつつも、先ほどからどうやら自分に対して意地悪をされているように感じてならない。
「ふー」
なぜなら、千代子は耳もとでわざと息を吹き掛けてくるなど今までなかったから。
「ちよちゃんそれ、やめて」
「っふふ」
やはり、笑っている。
彼女なりの仕返しなのだろう。
「だって、司さん……これ、すると……」
しかも男性としての生理的な反応を面白がられている。
しかしそれは千代子も同じで、司が少し身じろぎをするだけで「まだ駄目」と甘い声で抗議されてしまうが……じゃあずっとこのままになってしまうよ、とも今の司は言えなかった。
それにしても、寝間着を着たままあまり動かずにいると言うのに千代子も、司自身も、じわじわと波のように寄せる心地よさに呼吸が勝手に荒くなっていく。司の方はその息を噛み殺してはいたがついには千代子の方が先に音を上げた。
司の筋肉質な素肌の背にしがみ付いていた千代子の手の爪先がその入れ墨を抉るかのように深く食い込む。
「ちよちゃん、痛かったり怖かったら、教えて」
うん、うん、と頷く体をしっかりと抱き締めた司は千代子の体の緊張がほどけて、身をゆだねてくれているのを感じとる。
「我慢も、しないで」
向かい合って抱き合えば司は千代子の艶めかしい大人の女性の赤く色づき染まっている顔を間近で見てしまう。
可愛い物が好き、と言う事が最近分かって来た千代子の――夜だけ見せてくれる艶のある表情。汗で首筋に張り付く髪も、どうしても滲んでしまう涙も美しくて、儚い。
「ずっと、寂しかった……の」