君の苦しみが、少しでも軽くなりますように

初恋

小学校六年生ともなれば、普通にそこら辺で女の子が恋バナをしている。
自分も女の子である身、よく話をふられたりするものだが、
今好きな人もいなくて初恋もまだ、という私にそういう話は無理があった。
だから、私は一人で教室の隅っこで勉強することにした。
体全体から「近づくなオーラ」を出しておけば、
誰も近づいてこないものである。
そこに心地よさが感じられて、私はその日以来ずっと一人だ。
別に、「ぼっち」だからといって、寂しいわけでもない。
ただ、一人だと気楽なだけだ。
目前まで迫ってきている中学受験を考えていた方がよっぽどいい。
そうこうしているうちに、もう十月に入っていた。
もうすぐ受験シーズンに入るというこの時に、
私は母親にスクールツアーに行けと言われた。
都内一番の共学進学校で、私の第一志望の清水学院(しみずがくいん)
清水学園に行くことは別に嫌じゃない。むしろ、見て回れるのだから、
嬉しすぎるぐらいだ。
しかし、スクールツアーともなると、
他の人について行って、ひと回り見て回って、はい終わり、ではないか。
つまらない。
自分で見て回りたい。
まぁ、無理だと承知しているが。

スクールツアー当日。
その日、空は曇っていて、今にも雨が降りそうだった。
それと同じように、私の心も憂鬱だ。
母親に連れられて清水学院まで来て、テニスコートから体育館に入って、並ばされる。
私は二十九班になった。
案内するのは、背がすごい高い男子の先輩。
めがねをかけていて、少し愛嬌のある顔立ちで、
クラスの中心でふざけてそうな感じ。
そして、スクールツアーが始まり、想像通り、つまらなく、ただ男子の先輩について校内を歩き回っただけ。
来た意味ないじゃん。
心の中でぼやきながら、その先輩の説明が耳から耳へ通り抜けていくのを感じる。
ほんとに、つまらない。
そうして歩いていると、教室に座らされた。
なにか始まるのだろうかと思っていると、
そこに女子の先輩が率いている三十班が合流した。
この女子の先輩は、私と同じくらいの背丈で、整った顔立ちをしていた。
ほんのり微笑んでいるのが可愛い。
優等生みたいだ、と第一印象で思った。
そして、一番前に座ってぼんやり二人を見ていると、
自己紹介を始めた。
男子の先輩は、佐藤雄大(さとうゆうた)先輩、女子の先輩は夏澄(かすみ)先輩というらしい。
夏澄先輩は第一印象と全然違くて、すごく面白い先輩だった。
笑うと可愛くて、
演技もうまくて、
そして時折ミステリアスで儚い雰囲気だった。
そんな先輩に、私は一目惚れした。

帰りの時、先輩は名前を聞いてくれた。
海名葵(うみなあおい)です」
嬉しい気持ちを抑えて答える。
「葵ちゃんっ!よろしくっ」
先輩がニコニコで言った。
これが恋なんだ、と思った。
私の初恋。
女子の先輩に恋した女子の私。
これが私の初恋。
そして、絶対清水学院に受かりたい、
先輩と同じ学校に通いたい、
そう思った。

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