幼なじみの甘い低温
ゼミ後の演習室、17時。残っているのはわたしと茉耶のふたりだけで、こういう話ができるのも他の誰にも邪魔されないからだ。
日々、日常が混在する大学という空間では、静けさを味えることも少ない。
うっすらと頬を赤らめる可愛い顔を見ることができるのも、恋がはじまってすぐのときめきを聞けるのも、今はわたしだけだ。
可愛らしい顔の造形、色白で小さくて、愛嬌たっぷりの人懐っこい笑顔。
女のわたしでもうっかりすきになってしまいそうな、愛され属性の彼女は言うまでもなく異性からのアプローチが絶えない。
今このひとと良い感じ、あのひとに告白された、とは聞いても、茉耶自身から誰某がすきということは聞いたことがなかった。
だからこそ、茉耶のすきなひとは価値があって貴重で、それが直であるという事実に、動揺を仕舞い込んで飲み込んだ。結果、咄嗟に知らないふりをしてしまったのだ。