冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない
 美しい艶やかな黒髪に金色の瞳は綺麗な顔立ちをより一層惹き立たせていた。紺色の上質な生地に金色の刺繍とエメラルド色のスワロフスキーが少し散りばめられた控えめなドレスも、気品あるアベリアに似合っていた。それに、そのドレスから見える白い素肌も美しく男心をそそられる。

(って、俺は一体何を考えているんだ)

 フェイズは机に突っ伏して唸る。まさか会いたいと思っていたその人に会えるなんて。それなのに、自分は開口一番とても酷いことを口にしたのではないだろうか。

(噂に振り回されることにうんざりしているのはアベリアも同じなのかもしれないな)

 シャルロッテの言葉に、アベリアは嬉しいと言って涙を流した。もしかしたら、彼女も謂れもない噂に傷つき、心を閉ざし、それでも懸命に生きてきたのかもしれない。

(噂を鵜呑みにして相手を知ろうともせず、勝手に人物像を作り上げるなんて、一番やられて嫌なことを俺がしてしまっている。馬鹿すぎるだろ、最低だな)

 机に顔をつけたまま、窓から見える月を見つめた。

(どうやったら俺は挽回できる?きっとアベリアは一方的にあんな酷いことを言った俺なんかのこと、嫌いになったに決まってる)

 はああああ、と盛大なため息が部屋に鳴り響いた。

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