冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない

11 視線の先

「フェイズ様、いいのですか?あんなことを言って、フェイズ様がもっと悪く言われる原因になりかねません」

 馬車の中で、アベリアは困惑した顔でフェイズに尋ねた。

「いいんだ、今までだって散々身勝手に言われて来たんだ、今更どう言われようと構わない。それに、ああ言った方が噂通りの冷酷非道な精霊公爵様っぽいだろ?」

 フェイズはそう言ってふふん、と少し楽しそうに笑う。

(私のために、あえて自分の噂を利用したんだわ)

 フェイズの優しさに、アベリアの心はホワホワと温かくなる。同時に、フェイズのことを冷酷非道だと勝手にヒソヒソ言われたのは気に食わない。

「それでも、やっぱりフェイズ様が勝手に酷く言われるのは気に食わないです。こんなにも優しくて素敵な方なのに……」

 ムッとしてそう言うと、フェイズはアベリアを見て愛おしそうに微笑んだ。

「俺は、君にそう思ってもらえさえすれば他はどうでもいい。君さえ本当の俺を知っててくれれば十分だ。それに、冷酷非道な精霊公爵像というのは案外うまいこと色々な場面で使えるからいいんだよ」

 そういうものなのだろうか、そう思いながらフェイズの顔を見つつ、アベリアはふと重要なことに気がつく。

(フェイズ様、最近私と目を合わせても目を逸らさなくなったわ)

 むしろ、じっと見つめられることの方が多くなった。それに、その熱い視線に耐えきれず視線を逸らしてしまいそうになるのは自分の方になっている。 今も、目の前でじっと自分を見つめる視線にアベリアは心臓がドキドキと高鳴って仕方がない。思わず視線を逸らして俯いた。

 フェイズはそんなアベリアを屋敷に着くまで微笑みながらじっと見つめていた。
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