冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない
 上着をかけられた際にフワッと香るフェイズの匂いにアベリアは思わず胸が高鳴り、顔が熱くなる。闇夜の中、見張り台にある少ない灯りにぼんやりと照らされてフェイズの銀髪がキラキラと輝いている。湯上がり後なのだろう部屋着というラフな格好も、フェイズの色気を余計に引き立てていてアベリアの胸はさらに高鳴った。

(暗くてよかった。顔が赤くなっているのをフェイズ様に見られなくて済むわ)

「フェイズ様はどうしてここに?」
「……俺も、寝付けなくてここに来た。そしたら君がいたから……ラッキーだったな」

 フワッと嬉しそうに笑うフェイズに、アベリアはまた胸がドキンとして思わず目を逸らす。

「アベリア、最近、俺の顔を見てくれなくなったね」

 フェイズの言葉にアベリアは動揺して視線を揺らした。なるべく気付かれないようにしていたつもりだったが、フェイズにはバレていたのだ。

「そう、ですね。すみません。逆に最近、フェイズ様は目を逸らさなくなりましたね」
「そうだね。……俺に見つめられるのは嫌?」
「嫌ではないです、むしろ嬉しい、です、けど……」

 自分の方が恥ずかしくなっている、だなんて言えない。アベリアはフェイズを少しだけ見ると、すぐに視線を外して俯いた。だが、フェイズはアベリアに近づくとそっとアベリアの顔を覗き込み、アベリアの片手を掴んだ。

「アベリア、君が来た日に白い結婚を望むと言ったけど、今の俺は白い結婚ではなく君とちゃんと結婚したいと思っている。精霊の試験のこともあるけれど、それとは関係なく、俺の気持ちとして本当の意味で夫婦になりたい。そのために、視線を逸らさずにちゃんと君を見たいし君に見てほしい。そう思うから、これは俺なりの覚悟なんだ」

 そう言って、もう片方の手でアベリアの頬に手を添える。まるで自分を見てくれと言わんばかりだ。そんなフェイズに促されるようにアベリアは瞳を上げフェイズを見つめると、掴んでいたアベリアの片手を自分の胸元に当てた。

「俺がすごいドキドキしてるのわかるだろ?これが俺の君に対する気持ちだ。好きだよ、アベリア。君が嫌じゃなければ、ちゃんと夫婦になってこれからもずっと俺のそばにいてほしい」
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