冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない
一体、なんだというのだろう。アベリアが不思議そうな顔でメイドを見つめていると、隣にいたご令嬢が弱々しい声で言う。
「私が、精霊公爵の妹だから、ですよね。……いいんです、一人でも大丈夫ですので。すみません」
精霊公爵というフレーズは聞いたことがある。代々精霊と契約し、その力を国のために奮ってきた家柄だ。冷酷非道で気に入らない相手は容赦なく潰すという恐ろしい噂もある。だが、あまり表には姿を見せることがなく実際は謎に包まれており、それゆえ恐れられ、誰も関わろうとはしなかった。
「どこのどなたか存じませんが、私に関わるとあなたにまでご迷惑がかかってしまいます。私は大丈夫です。本当にありがとうございました」
小さな声でアベリアへそういうと、精霊公爵の妹は静かに微笑んだ。
(そんな、そんなことでこんなにも可愛らしく弱々しいご令嬢がひどい扱いを受けなければいけないの?)
アベリアは話を聞きながら内心ムカムカと腹立たしい思いをしていた。そして、精霊公爵の妹の両肩をしっかりと支えると、メイドへ厳しい視線を向ける。
「精霊公爵の妹君だからと言ってこのような対応をするのは、あなたの主も同じなのでしょうか?あなたの主は、そうするようにとあなたへ教えているのですか?」
「そ、そんなことは……」
アベリアの問いに、メイドが口をつぐむ。
「まだこの方にこのような対応をするというのであれば、私は然るべき手段をとってあなたの主へ抗議します。私にまつわる噂がどんなものか、ご存知ですよね?」
気に入らないメイドはいびり倒すという噂を示唆すると、メイドは怯えながら渋々と精霊公爵の妹へ手を差し出した。それを見て、アベリアは精霊公爵の妹へ視線を戻す。
「私は、アベリア・ライラットと申します。もし、私がいなくなった後でまたひどい扱いを受けるようであれば、いつでもいいので私へご連絡ください。然るべき措置を取りますので」
そう言って微笑むと、精霊公爵の妹はアメジスト色の綺麗な瞳をキラキラさせてアベリアを見つめる。
「ど、どうしてここまでしてくださるのですか?」
「……私は曲がったことが大嫌いなのです。それだけですわ」
ドレスの裾をつまみふわりと持ち上げてお辞儀をすると、アベリアは颯爽とその場を後にした。その後ろ姿を見つめながら、精霊公爵の妹はポツリと呟く。
「なんて素敵な方……」
◇
(思ったより時間がかかってしまったけれど、あれは見過ごすわけにはいかなかったもの。仕方ないわよね)
ドンッ
急足で廊下を歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「も、申し訳ありません……」
おでこに手を当てながら見上げると、そこには美しい銀髪にサファイア色の瞳をもつ見目麗しい御仁がいた。どこかの令息だろうか、上質な礼服を身に纏っている。
(なんて、美しい人なのかしら……!)
驚いて見惚れていると、その令息はアベリアを見下ろしながら口を開く。
「すみません、急いでいるもので。失礼」
そう言って、曲がり角を曲がり消えていった。
「私が、精霊公爵の妹だから、ですよね。……いいんです、一人でも大丈夫ですので。すみません」
精霊公爵というフレーズは聞いたことがある。代々精霊と契約し、その力を国のために奮ってきた家柄だ。冷酷非道で気に入らない相手は容赦なく潰すという恐ろしい噂もある。だが、あまり表には姿を見せることがなく実際は謎に包まれており、それゆえ恐れられ、誰も関わろうとはしなかった。
「どこのどなたか存じませんが、私に関わるとあなたにまでご迷惑がかかってしまいます。私は大丈夫です。本当にありがとうございました」
小さな声でアベリアへそういうと、精霊公爵の妹は静かに微笑んだ。
(そんな、そんなことでこんなにも可愛らしく弱々しいご令嬢がひどい扱いを受けなければいけないの?)
アベリアは話を聞きながら内心ムカムカと腹立たしい思いをしていた。そして、精霊公爵の妹の両肩をしっかりと支えると、メイドへ厳しい視線を向ける。
「精霊公爵の妹君だからと言ってこのような対応をするのは、あなたの主も同じなのでしょうか?あなたの主は、そうするようにとあなたへ教えているのですか?」
「そ、そんなことは……」
アベリアの問いに、メイドが口をつぐむ。
「まだこの方にこのような対応をするというのであれば、私は然るべき手段をとってあなたの主へ抗議します。私にまつわる噂がどんなものか、ご存知ですよね?」
気に入らないメイドはいびり倒すという噂を示唆すると、メイドは怯えながら渋々と精霊公爵の妹へ手を差し出した。それを見て、アベリアは精霊公爵の妹へ視線を戻す。
「私は、アベリア・ライラットと申します。もし、私がいなくなった後でまたひどい扱いを受けるようであれば、いつでもいいので私へご連絡ください。然るべき措置を取りますので」
そう言って微笑むと、精霊公爵の妹はアメジスト色の綺麗な瞳をキラキラさせてアベリアを見つめる。
「ど、どうしてここまでしてくださるのですか?」
「……私は曲がったことが大嫌いなのです。それだけですわ」
ドレスの裾をつまみふわりと持ち上げてお辞儀をすると、アベリアは颯爽とその場を後にした。その後ろ姿を見つめながら、精霊公爵の妹はポツリと呟く。
「なんて素敵な方……」
◇
(思ったより時間がかかってしまったけれど、あれは見過ごすわけにはいかなかったもの。仕方ないわよね)
ドンッ
急足で廊下を歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「も、申し訳ありません……」
おでこに手を当てながら見上げると、そこには美しい銀髪にサファイア色の瞳をもつ見目麗しい御仁がいた。どこかの令息だろうか、上質な礼服を身に纏っている。
(なんて、美しい人なのかしら……!)
驚いて見惚れていると、その令息はアベリアを見下ろしながら口を開く。
「すみません、急いでいるもので。失礼」
そう言って、曲がり角を曲がり消えていった。