冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない

4 再会

「遠路はるばるお越しいただき、感謝する」

 朝一で公爵家からの迎えの馬車に乗り、公爵家に着いたのはその日の夜近くだった。確かに道中は長く、どんなに高そうで品質の良い馬車の中でもほぼ一日を過ごせば腰やお尻がとても痛い。だが、そんなことよりもアベリアは挨拶の言葉を口にした目の前の婚約者、精霊公爵の顔を見て驚いた。

(この方は……)

 イザベラからいわれのない罪を着せられ舞踏会の会場から帰ろうとした途中、廊下で美しいご令嬢を助けたその帰り道。廊下でぶつかった美しい男性その人だった。
 美しい銀髪に宝石のように美しいサファイア色の瞳。誰もが見惚れるであろう整った顔立ちのその人は、唖然とするアベリアをただじっと見つめていた。

(あ、挨拶をしないと……!)

「アベリア・ライラットと申します。この度は……」
「お堅い挨拶は抜きだ。今回、縁談の話を受け入れてくれて感謝する。相手が俺だと知ってきっとあまり良い気分にはならなかっただろうが、それはお互い様ということで帳消しにして欲しい」

 お互い様?どういうことだろうとフェイズの顔を見ると、フェイズは感情のこもらない冷たい瞳でアベリアを見てこう言った。

「常に氷のように冷たく、義理の妹を執拗にいじめ、気に入らないメイドや執事は辞めるまでいびり倒す。普段は全く笑わないくせに、妹をいじめている時だけ嬉しそうに高らかに笑う、絵に描いた悪役令嬢のような女なのだろう、君は」

 フェイズから放たれた言葉にアベリアはぎゅっとドレスを握りしめる。覚悟はしていたが、フェイズも自分のありもしない噂を本当だと思っているのだ。

「この家では自由にしてもらっても構わない。俺は白い結婚のつもりだし、君もその方が都合がいいだろう。どうせ俺の噂も聞いているんだろう、勝手にそう思っていればいい。馴れ合うつもりはないからな。ただ、家のものに失礼な態度を取るのだけは許さない。何より」

 そう言って、アベリアを睨みつける。
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