冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない
「俺にも妹がいる。たった一人の大切な、血のつながった妹だ。もし俺の妹に何かしてみろ、すぐにでもこの屋敷から追い出してやる」

 凍りつくような視線に内臓から震え上がるような恐ろしいほどの低い声。アベリアは思わず悲鳴をあげそうになるが、グッと堪える。

(一方的に拒絶する態度。自由にしていいと言うけれど、どこに行っても私は一人なのね。いいわ。あの家にいるよりはマシだと思えるようにここで生きてみせるから)

 フェイズの言葉を聞いて目を瞑り、小さく息を吐く。そして目を開きフェイズへ視線を合わせ、口を開いたその時。

「お兄様。お兄様〜!!!!」

 バタバタバタと廊下を走ってくる音が聞こえる。そして、二人のいる部屋のドアがバン!と大きな音を立てて開いた。

「シャルロッテ!突然部屋に入ってくるなんてはしたないだろう」
「ご、ごめんなさいお兄様!でも、お兄様の婚約者がいらっしゃる日に私だけ仲間はずれなんてひどいです!お相手のこと何も教えてくださらないし」
「仲間はずれなんかじゃない。言っただろう、婚約者はまるで悪役令嬢と名高い女性で危ないからと……」

 そう言って、フェイズは部屋に入ってきたご令嬢の肩をアベリアから守るようにそっと抱き寄せた。だが、アベリアとフェイズの妹の目があった瞬間、フェイズの妹は大声を出し、同時にアベリアもハッとする。

「ああっ!あなたは!」
「……まさか、あの時のご令嬢?」

 フェイズが頑なに守ろうとしている妹は、舞踏会の日にアベリアが助けたか弱いご令嬢その人だった。
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