総長代理は霊感少女!? ~最強男子の幽霊にとり憑かれました~

第18話 襲撃!

 お父さんとお母さんが帰ってこれなくなって、今日は寂しい誕生日になるかと思ったけど。
 響夜さんのおかげで、楽しい1日になった。

 水族館に行った後は、近くのカフェで食事を取って。
 その後は近くのモールに行って、ウインドウショッピングを楽しんだ。
 行ったのは主に雑貨屋やファンシーショップで、もしかしたら響夜さんはつまらないんじゃないかって思ったけど……。

「美子の行きたい場所に行くといいさ。普段の俺じゃあ行かない場所に行くのも、面白いしな」

 だって。
 途中、モコモコしたかわいいウサギのキーホルダーを見ていたら、響夜さんが誕生日プレゼントに買うって言い出したんだけど、水族館やお昼の支払いは、全部響夜さんの財布から出したし。
 これ以上はさすがに悪かったから、辞退した。

「別に遠慮しなくてよかったのに……こういうとき生霊だと、こっそり買って後からサプライズってできないのが悔やまれるな。それに姿が見えないと、虫除けができないのもなあ」

 悩ましそうな顔をする響夜さん。
 虫除けっていうのは、あのことかな?
 実はモールを回っている途中で、中学生くらいの男性に声をかけられたの。
 1人なら、一緒に遊ばないかって。
 けどどう返したらいいかわからずに戸惑っていると、響夜さんが憑依して「1人じゃないから他を当たれ」って言って凄んで。
 相手の男性は、退散していった。

「あの人、結局なんだったんでしょう? どうして私を誘ったのか」
「なにってそりゃあ……美子はもう少し、容姿を自覚した方がいいな。悪い虫が際限なくわいてきそうだ」

 響夜さんが何を言っているのかは分からなかったけど、モールを出た後は帰路について、今は家の近く。
 本当に楽しい1日だった。

「響夜さん、今日は本当に、ありがとうございました」
「楽しんでもらえたのなら良かった……むしろ俺の方が、楽しませてもらったかもしれないけど」
「え?」
「いや、なんでもない……。なあ、もし俺が体に戻れたとして。美子さえよければ、また時々こうして……」

 何かを言おうとする響夜さん。
 だけどそのとき──

「お前、皆元美子だな」

 不意に後ろから、名前を呼ばれる。
 振り返るとそこには、数人の男子達がいて、私を囲んでくる。
 
 な、なんなのこの人たち?
 すると、響夜さんが叫んだ。

「美子、体を貸してくれ!」
「響夜さん? この人たちはいったい?」
「紫龍の奴らだ! コイツら、美子を狙ってきやがったのか」

 この人たちが紫龍!?

「おいおい。本当にこの子が、今の七星の総長なのかよ?」
「総長じゃなくて、総長代理な。信じられねーけど、確かな情報だ」
「女が総長代理とは、七星も落ちたもんだな。けど、かわいいじゃねーか」

 彼らはなめ回すように私を見て、思わず身をよじる。
 すると彼らの中の1人が、乱暴に私の腕を掴んだ。

「痛っ!」
「アンタ、俺達と一緒に来てもらうぜ」
「いやっ、放してくださ──」「──手を放せ! 美子に触れるな!」

 しゃべっていた私の口調が変わって、腕を掴んでいた男子の足を思いっきり蹴った。
 もちろん私がやったんじゃない。響夜さんが、憑依したんだ!

 蹴られた男子は私から手を放して地面に倒れ、何が起きたのかわからない様子で、痛がりながら目を白黒させている。

「なんだ、この女? 大人しそうに見えて、やるじゃないか」
「ひょっとして総長代理ってのは、伊達じゃねーのか?」
「お前ら、なにビビってんだよ。相手は女で、しかも1人じゃねーか。さっさとやっちまうぞ!」

 私を囲んでいた彼らが、一斉に向かってくる。
 私、ケンカなんてしたことないのに。
 誰も彼もすごみがきいてて、とても怖い。
 だけど……。

「その女一人に大勢でかかるなんて、お前らダサすぎだな」

 響夜さんは私の体を操りながら、掴みかかろうとする男子の手を、紙一重でかわす。
 同時に、相手の顔に拳をめり込ませた。

「ぐあっ!?」
「コイツ、なんて凶暴な女だ!」

 こんなに抵抗されるなんて思っていなかったみたいで、相手は警戒を見せる。
 響夜さんはその後も、次々と襲ってくる紫龍の人達の攻撃をよけながら、反撃していく。
 そういえば響夜さん前に、10人くらいなら勝てるって言ってたっけ。
 あのときの言葉通り、人数差をものともしていない。
 響夜さんなら、このまま退けられるかも?
 だけど……。

「ハァッ、ハァッ……どうだ、まだくるか?」

 紫龍の人達を退けてる響夜さんだけど、息が上がっていることに気がついた。
 やっぱり、この人数を相手に戦うのは難しいの?
 ううん、これはもしかして……。

(響夜さん、もしかして私の体だと、体力がもたないんですか!?)
「…………」

 たずねたけど、響夜さんはなにも答えなかった。
 けど、それこそが答え。
 当然だよね。私は体力があるわけでも、運動が得意なわけでもない。
 そんな私の体じゃ、響夜さんの力を存分に発揮できないに決まってる。
 私が、響夜さんの足を引っ張ってるんだ。

 それでも、このまま撃退できればよかったんだけど、その考えは甘かった。
 1人が不意をついて、後ろから羽交い締めしてきたの。

「この、大人しくしろ!」
「くそ、放せ!」
「誰が放すかよ。みんな、取り押さえるぞ!」

 掛け声とともに他の人達も一斉にとびかかってきて、地面に押さえつけられる。
 本来の響夜さんなら、押し退けられたかもしれない。
 だけど私の体じゃ力も弱いから、それもできない。

「くそっ! コイツら」
(響夜さん!)


 響夜さんは抵抗したものの、大人数に押さえつけられたんじゃどうしようもない。
 私の体では、抵抗するのもこれが限界。
 完全に動きを封じられた。

「手こずらせやがって。皆元美子、俺達と一緒に来てもらうぜ」
「お前ら、どこにつれていく気だ?」
「いいからついてこい。うちの総長がお呼びだ」

 し、紫龍の総長さんが!?
 私にいったいなんの用?

 理由は分からなかったけど、嫌な予感しかしない。
 私はこれからどうなるかわからない恐怖と、響夜さんの足を引っ張ったことに対する申し訳なさで、胸が張り裂けそうになった。

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