総長代理は霊感少女!? ~最強男子の幽霊にとり憑かれました~

最終話 彼と一緒にこれからも

 目を醒ました後も、響夜さんは数日入院。
 その間も私達は、また紫龍が何か仕掛けてくるかもと警戒していましたけど。
 意外にも彼らは大人しく、予想していた衝突は起きませんでした。

「以前の負けが、堪えたんだろうな。もうおいそれと七星に手を出してこねーよ」

 って、直也さんが言っていました。
 おかげで私達は安心して、退院した響夜さんを迎えることができますけど。
 響夜さんが七星に戻ってくるということは、総長代理はもう必要ないということ。
 私の役目は、もう終わったんです。

 そして今日は、響夜さんの退院の日。
 七星のアジトに帰ってきた響夜さんは、みんなに拍手で迎えられる。

「響夜さーん、退院おめでとうございまーす!」
「さすが俺らの総長、戻ってくるって信じてましたよ!」

 アジトには七星のメンバーが勢揃いしていて、響夜さんは彼らを見ながら、顔をほころばせた。

「お前ら……心配かけて、悪かったな。それによく俺の留守を守ってくれた。お前らの頑張り、しっかり見てたぜ」

 アジトの中は歓声に包まれて、直也先輩や晴義先輩もホッとした表情で、響夜さんを見てる。
 やっぱり七星は、響夜さんがいてこその七星なんですね。
 そして響夜さんは、私へと目を向ける。

「美子も、ありがとうな。留守を守ってくれて」
「私は、自分にできることをやっただけですよ。あの、響夜さん、それと……」
「わかってる……お前ら、美子が話があるそうだ!」

 響夜さんが手招きしてくれて、そのままバトンタッチ。
 私は、みんなの前に立つ。

「あの……実はみなさんに、聞いてほしいことがあるんです。もしかしたら信じてもらえないかもしれない、不思議な話なんですけど……」

 突然の話の始まりに、ガヤガヤとどよめく七星メンバー。
 私は彼らに向かって、ゆっくりと話しはじめた……。

◇◆◇◆

「……というわけで私は、響夜さんの彼女ではありません。皆さんに出していた指示も、私に憑依した響夜さんが出してくれていたんです。今まで黙っていて、本当にすみませんでした!」

 七星の人達に向かって、頭を下げる。
 そう、私は彼らに、幽霊を視ることができるという自分の秘密を。響夜さんの生霊がとり憑いていたことを、全て話したの。

 だって私が紫龍の人達に捕まったとき、みんなは私を助けるために駆けつけてくれたんだもの。
 そんなみんなに隠し事をしたままでいるなんて、耐えられない。
 だから響夜さん達と相談して、全部打ち明けることにしたの。

 響夜さんはすぐ横で、そんな私をじっと見守ってくれている。
 響夜さんだけじゃない。
 拓弥くんに直也先輩、晴義先輩も。

 だけどはじめて話を聞くみんなにとっては、突拍子もない話だったのかな。
 話を終えても、アジトの中はシーンと静まりかえってる。

 やっぱり、信じてもらえないのかな?
 変な子と言われて、仲間外れにされていた日々が思い出されて、心臓がギュ~ってなる。
 すると、何人かポツポツと口を開きはじめた……。

「総長の生霊が? スゲー、そうだったんだ」
「じゃああの時、俺達に渇を入れてたのは、響夜さんだったのかよ」
「ヤベェ! 生霊とか幽霊が視えるとか、うちの総長と総長代理、マジでスゲーよ!」

 驚いたような、感心したような声がザワザワと広がっていくけど……ちょ、ちょっと待って!
 思ってた反応と、違うんですけど……。

「あ、あの、皆さん。信じてくれるんですか? 私が言うのもなんですけど、おかしなこと言ってるって、思わないんですか?」
「いや、ビックリはしたけど、なんか納得っていうか……」
「姐さん、普段は大人しいのに、時々総長が乗り移ったみたいになるって、思ってたんだよ。けど本当に、乗り移っていたなんて」

 どうやらみんな私の二面性に、違和感を抱いていたみたい。
 だから響夜さんの生霊がとり憑いていたと言っても、むしろ納得してくれたよう。
 まさかこんな簡単に信じてもらえるなんて。
 これじゃあ、今まで何のために秘密にしていたのかわからない。 
 みんなの反応に私はポカンとして、拓弥くんたちも苦笑いをする。

「こうまですんなり受け入れるなんて。なかなか信じてやれなかった自分が情けねーな」
「まったくだ。俺ら最初、メチャクチャ疑ってたのにな」
「今更だけど、すまない。あの時は本当に、失礼したよ」

 晴義先輩が謝ってきたけど、もういいですよ。
 それよりも、七星のみんなに信じてもらえたことの方が嬉しい。
 今まで幽霊が視えることを言うと、変な子と言われて仲間外れにされてきたけど、こんなにたくさんの人に受け入れてもらえるなんて。
 すると隣にいた響夜さんが、ポンと背中を叩いてくきた。

「よかったな、美子」
「……はい」

 やっぱり私にとっても、七星の人達は特別みたいです。

「皆さん……信じてくれて、ありがとうございます。私は今日で七星を抜けますけど、皆さんのことは絶対に忘れません!」

 なんて、まるでアイドルの引退式みたいなこと言っちゃった。
 でもこれは、紛れもない本心。
 響夜さんが戻ってきた今、七星に私は必要ないけど。
 短い間でも、みんなといられてよかった……。

 だけど、ざわめきが突如、悲鳴に変わった。

「え、待ってください! 七星を抜けるってどういうことですか!?」
「姐さん、辞めちゃうんですか!?」

 ザワザワとみんな動揺してるけど、えっ?
 元々、そういう話だったよね?

「み、みなさん落ち着いてください。そもそも私は、響夜さんが帰ってくるまでの代理でしたし……」
「いいじゃないですか、このまま残っても!」
「美子さんなら、俺らみんな大歓迎ですよ!」

 そう言ってくれるのは嬉しい。
 けど……。

「けど響夜さんが復帰したなら、残っても役に立てませんし」
「なに言ってるんですか! 紫龍にやられて怪我した俺達を手当てしてくれたのは、響夜さんじゃなくて姐さんなんですよね」
「響夜さんにもお世話になりましたけど、姐さんにもたくさん助けられました! 姐さんがいたから、俺達はまとまったんですよ!」

 そんな、私はただ、響夜さんの言葉を伝えていただけで。
 でも、その響夜さんが言う。

「コイツらをまとめられたのは、俺1人の力じゃねーよ。憑依だって、常にしていたわけじゃねー。気づいてないかもしれないけど、美子は総長代理としてしっかり、七星を守ってくれてたんだ」

 私が?
 そんなこと言われても、信じられない。
 私は、少しでもみんなの役に立ちたいって思って、できることをやってきただけ。
 それだけなんです。

「そうだ、総長はどう思ってるんですか」
「そうですよ、響夜さんの彼女でしょ!?」
「ええっ!? だ、だからそれはそういう設定だったというだけで、彼女だなんて……」

 言ってて、胸の奥がズキンと痛む。
 何を傷ついているんだろう?
 彼女というのはみんなを納得させるため、直也先輩が考えた設定なのに……。

「響夜さんがとり憑いてない私じゃ、きっとみなさんの足を引っ張っちゃいますよ。ですよね響夜さん!」
「そうだなあ……」

 じっと私を見る響夜さん。
 七星を抜けたら、響夜さんとももう、会うことが無くなるんですよね。

 ──ズキン!
 うっ……考えたら、また胸が痛む……。

「……紫龍が大人しくなったとはいえ、七星にいたら危険なこともある。ここにはいない方が、美子にとってはいいのかもしれない」
「──っ!」

 わかってはいたけど、響夜さんの口から言われると、心にくるものがある。
 それが私のことを思っての、響夜さんの優しさだとしても……。

「だけど……俺には美子が必要だ」
「…………え?」

 驚いて、うつむきそうになっていた顔を上げる。
 響夜さんは熱を持った目を、私に向けていて。
 少しだけ、拓弥くんの方を見た。

「……拓弥、いかせてもらうぞ」
「……いいっスよ。美子がどれだけ響夜さんのことを思ってるか、間近で見てましたから。俺の気が変わらないうちに、さっさとやっちゃってください」

 短いやり取りの後、再びこっちを見る響夜さん。
 そして──

「美子……総長代理なんて関係無い。俺は美子に、側にいてほしい!」
「──っ!」


 心臓が、壊れそうなくらい激しく鼓動を刻む。
「おおっ!」って声が上がった気がしたけど、それもどこか遠くに感じて。
 私の意識は、響夜さん一色になる。

 こ、これは夢? 
 もう生霊じゃないのに。響夜さんが私を必要としてくれるなんて!

 私達が知り合ったのは偶然。
 しかも響夜さんが事故にあって、たまたま私が視えたからという、いいとは言えないもの。
 だけどそれでも、許されるのなら……。
「わ、私も……私もっ、響夜さんの側にいたい──きゃっ!?」
「言ったな。だったらもう、放さねー!」

 力強い腕で、ギュ~って抱き締められる。
 ま、まだ言い終わっていないのに。
 ギャー、フライングはなしですよー!

「きょ、響夜さん、みんなが見てます。は、はずですよ!」
「見せつけてやればいい。美子はかわいいくせに、無防備だからな。俺の彼女だって、しっかりアピールしとかねーと」
「──んんっ!?」

 まるで胸の奥にお砂糖をぶち込むような、甘々~な言葉。
 ほ、本当に響夜さんですか!?
 まるで人が変わったような甘さに目を白黒させていると、周りからは今日一番の歓声が上がる。

「おおーっ! 総長やったー!」
「響夜さん美子さん、おめでとうございます!」

 巻き起こる拍手と、祝福の声。
 私は響夜さんの隣に……七星にいていいんだ。

「まさか、こんな結果になるなんてね」
「けどまあいいんじゃない。美子ちゃんいい子だし。拓弥は、まあ、残念だったけどね」
「いいっスよ。アイツが幸せなら」

 晴義先輩に直也先輩、拓弥くんも、暖かく私達を見守ってくれている。

 響夜さんは抱き締めていた私を解放して、両肩に手をおいたまま、向かい合う。

「美子のことが好きだ。もう放さない」
「響夜さん……私もです。これからも、よろしくお願いします」
「ああ!」

 響夜さんはもう一度、私を強く抱きしめて。
 周囲からは、祝福の拍手が上がる。

 これからもずっと、響夜さんと一緒にいられますように。
 暖かな彼のぬくもりを、感じながら。


 Fin
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