総長代理は霊感少女!? ~最強男子の幽霊にとり憑かれました~
第7話 拓弥くんともう一度
一夜明けて。
ベットの上で目を覚ました私は、う〜んって体を伸ばす。
そしてベットから出ると、恐る恐る部屋のドアを開けて、外を見た。
「先輩……起きてますか?」
「ああ……」
部屋の外には桐ヶ谷先輩が、足を崩して座っている。
結局昨夜あの後、どうやっても離れられないもんだから、先輩を家まで連れてくるしかなかったの。
うちに来た桐ヶ谷先輩はまず、現在私が一人暮らしをしていることに驚いてた。
実は私の両親は、仕事で数ヶ月家を空けてるの。
桐ヶ谷先輩、「ますますヤベェ」って頭を押さえてたっけ、
それからはもう、大変なことの連続。
幸い先輩は、少しくらいなら私から離れられて、お風呂に入るときや着替えるとき、外までなら移動することができた。
けどすぐ近くにいると思うと、やっぱり恥ずかしい!
寝るときも、先輩は部屋の外に。
一晩中廊下ですごしてもらうのはどうかと思ったけど、桐ヶ谷先輩、「同じ部屋で寝るなんてあり得ない」だって。
けど、正直助かった。
だって今こうしてパジャマ姿を見られてるだけでも抵抗があるのに、寝ているところを見られるってなったら、恥ずかしさが限界を突破しちゃうもの。
「昨夜は、ちゃんと眠れたか? 昨日から、迷惑かけっぱなしで悪い」
「困ったときは、お互い様ですよ。そうだ、私先に着替えておきますね」
再び部屋の中へと引っ込む。
昨日お風呂から上がってから何度も見られたとはいえ、なるべくパジャマのままでいたくはない。
着替えて、顔を洗って、それから朝食の準備をはじめ、リビングのテーブルにパンとサラダを並べた。
「朝、それだけで足りるのか?」
「はい。朝はそんなに食べられないんです」
「それで昨日は昼飯まで抜いたんだから、そりゃ倒れるわな」
「あのときは大変、ご迷惑おかけしました。そういえば……」
用意した朝食と、桐ヶ谷先輩を交互に見る。
「先輩は、なにも食べられないんですよね。昨夜も私1人で食べちゃいましたけど、お腹は空かないんですか?」
「不思議と全然空かねー。幽霊だからだろうな」
たしかに、幽霊が飲み食いするなんて聞いたことがない。
だけど昨日夕飯を取ったときもそうだったけど、桐ヶ谷先輩がなにも食べないのに私だけが食べるというのも、罪悪感があるよ。
あ、でもそれなら。
「あの、先輩。昨日やったみたいに、私に憑依することってできますか?」
「は、憑依? なんでまた?」
「だって憑依すれば、先輩も一緒にご飯を食べれるじゃないですか」
身体は私のものだから、栄養はちゃんと私にいくはずだし、問題なし。
桐ヶ谷先輩はちょっと考えたけど、「試してみるか」って私に触れてくる。
「ん? おい、皆元の体に、触れられるぞ」
「本当だ。これも、とり憑かれた影響?」
私も専門家ってわけじゃないから、詳しいことはわからない。
触れるようになった桐ヶ谷先輩の手は冷たく、これはたぶん幽霊だからかな?
「新しい発見だな。けどこの状態でも、憑依なんてできるのか?」
「とにかく、試してみましょう」
って言ったけど。
私はすぐに、考えが足りなかったことを自覚させられる。
桐ヶ谷先輩は正面から、まるで抱き締めるようにしてきたんだもの!
「せ、先輩!?」
「悪い。体に入るってなると、どうしてもこんな感じになる。嫌ならやめとくか?」
「い、いえ。続けてください」
言い出したのは私なのに、ここで投げ出すわけにはいかない。
桐ヶ谷先輩が私を抱き締めるように重なると、その瞬間。
先輩が吸い込まれるように、私の中に入ってきた。
「憑依できたのか?」
(私の口でしゃべってますから、成功です)
「なんだか変な感じだな。つーか皆元、今までもこんな風に憑依されたり、幽霊にとり憑かれて離れられなかったりしたことがあるのか?」
(……少しは。けど大抵は、すぐに出ていきました)
美味しいものをお腹いっぱい食べたいっていう男性に憑依されたときは、夕飯をたくさんおかわりしたら満足して成仏してくれた。
その後お腹を壊して、苦しい目にあったけど。
病気でなくなった女性にとり憑かれたときは、お子さんに一目会いたいという願いを叶えるためその人の家に行って、会わせてあげたっけ。
そんな風に心残りや悩みを晴らすと、幽霊は成仏してくれるんだけど……。
桐ヶ谷先輩の場合は、どうなんだろう?
生霊にとり憑かれたのは初パターンだし、もしも体に戻れない原因が悩みによるものなら、桐ヶ谷先輩の悩みって何?
七星のことが気になるなら、むしろ元の体に戻った方がいいんだけどなあ。
そんなことを考えながら、とりあえず朝食を取る。
憑依した先輩が食べてるんだけど、味は私にも伝わってきた。
「旨いな。またこうして、飯が食えるなんて思わなかったよ。ありがとな」
「ど、どういたしまして」
穏やかな顔でお礼を言ってくれた桐ヶ谷先輩を見て、朝食をもうちょっと多くしてもよかったかもって思った。
それから朝食を食べ終えて、学校に向かう。
もちろん桐ヶ谷先輩は私から離れられないから、一緒に登校することになった。
だけど生霊とはいえ、誰かと一緒に登校するなんて数年単位でなかったから、変に緊張しちゃう。
さらに途中、いつもの道で真夏ちゃんと会ったんだけど、そしたら……。
「ええっ、その人、美子お姉ちゃんの彼氏!?」
なんて言ってきて、ビックリしてひっくり返りそうになった。
真夏ちゃんも幽霊だから、生霊の桐ヶ谷先輩ことが視えるだろうなとは思っていたけど……。
「ち、違う違う違う! 彼氏なんかじゃないってば!」
「……そこまで強く否定しなくてもいいだろ」
あれ、なぜか桐ヶ谷先輩が、不機嫌になっちゃった。
とにかく、真夏ちゃんの誤解を解いてから別れて、学校へ。
いつもは誰かに話しかけられる事もないんだけど、今朝は教室に入ったとたん、先に来ていた拓弥くんが声をかけてきた。
「美子、あの後どうなった?」
「拓弥くん、おはよう。……桐ヶ谷先輩は、私の後ろにいるよ」
「それで、その……昨夜はなにもなかったよな?」
「なにもって?」
周囲の様子をうかがいながら、小声で話す。
普段誰とも話さない私が、拓弥くんとしゃべってるんだもの。
どうしてあの二人が? って顔で見てる子もいるから、聞こえないよう気を付けないと。
「……皆元、拓弥に『あるわけないだろアホ』って言っとけ」
「ええと、先輩は、『あるわけない』って言ってる」
「そっか。まあ、響夜さんなら大丈夫に決まってるか」
どうしてホッとしてるのかわからずに首をかしげたけど、拓弥くんは思い出したように言ってくる。
「美子、その……悪い。お前が幽霊が視えるって言っても、信じてあげられなかった。本当に悪い」
「仕方ないよ。視えないのに、信じるのは難しいもの。けど、もう信じてくれたんだよね」
「当たり前だろ」
だったら、嬉しい。
小学生の頃、私のことを「変な子」って言ってたクラスの子に同意したのを目撃したあの日から、拓弥くんの間に壁ができてしまっていたけど。
長い間あったモヤモヤが、やっと晴れた。
わかってもらえたことが、本当に嬉しい!
「今更だけど、何か困ったことがあったら、俺に言ってくれ。響夜さんの件もあるし、俺にできることなら、なんでも力になるから」
「え? そんな、悪いよ」
「皆元、ここは素直に受け取っておけ。その方が、そいつも喜ぶ」
戸惑う私に言ってくる、桐ヶ谷先輩。
そ、それなら……。
「じゃあ……よろしくお願いします」
「ああ!」
満面の笑みで返事をする拓弥くん。
こんな拓弥くんを見るのは久しぶりで、私まで心がポカポカしてくる。
「よかったな、皆元」
「はい……先輩のおかげです」
桐ヶ谷先輩にとり憑かれたときは大慌てで、これからどうなるか不安だったけど、悪いことばかりじゃない。
……拓弥くんと話してるせいで周りから注目されてるのは、ちょっと緊張するけど。
けどもう一度話せるようになったのは、本当に嬉しいよ!
……だけど、昼休みになって。
「失礼する。拓弥、それに皆元美子さんはいるかな?」
教室にやってきた染谷先輩がそう言ったことで、私は再び注目を集めるのだった。
ベットの上で目を覚ました私は、う〜んって体を伸ばす。
そしてベットから出ると、恐る恐る部屋のドアを開けて、外を見た。
「先輩……起きてますか?」
「ああ……」
部屋の外には桐ヶ谷先輩が、足を崩して座っている。
結局昨夜あの後、どうやっても離れられないもんだから、先輩を家まで連れてくるしかなかったの。
うちに来た桐ヶ谷先輩はまず、現在私が一人暮らしをしていることに驚いてた。
実は私の両親は、仕事で数ヶ月家を空けてるの。
桐ヶ谷先輩、「ますますヤベェ」って頭を押さえてたっけ、
それからはもう、大変なことの連続。
幸い先輩は、少しくらいなら私から離れられて、お風呂に入るときや着替えるとき、外までなら移動することができた。
けどすぐ近くにいると思うと、やっぱり恥ずかしい!
寝るときも、先輩は部屋の外に。
一晩中廊下ですごしてもらうのはどうかと思ったけど、桐ヶ谷先輩、「同じ部屋で寝るなんてあり得ない」だって。
けど、正直助かった。
だって今こうしてパジャマ姿を見られてるだけでも抵抗があるのに、寝ているところを見られるってなったら、恥ずかしさが限界を突破しちゃうもの。
「昨夜は、ちゃんと眠れたか? 昨日から、迷惑かけっぱなしで悪い」
「困ったときは、お互い様ですよ。そうだ、私先に着替えておきますね」
再び部屋の中へと引っ込む。
昨日お風呂から上がってから何度も見られたとはいえ、なるべくパジャマのままでいたくはない。
着替えて、顔を洗って、それから朝食の準備をはじめ、リビングのテーブルにパンとサラダを並べた。
「朝、それだけで足りるのか?」
「はい。朝はそんなに食べられないんです」
「それで昨日は昼飯まで抜いたんだから、そりゃ倒れるわな」
「あのときは大変、ご迷惑おかけしました。そういえば……」
用意した朝食と、桐ヶ谷先輩を交互に見る。
「先輩は、なにも食べられないんですよね。昨夜も私1人で食べちゃいましたけど、お腹は空かないんですか?」
「不思議と全然空かねー。幽霊だからだろうな」
たしかに、幽霊が飲み食いするなんて聞いたことがない。
だけど昨日夕飯を取ったときもそうだったけど、桐ヶ谷先輩がなにも食べないのに私だけが食べるというのも、罪悪感があるよ。
あ、でもそれなら。
「あの、先輩。昨日やったみたいに、私に憑依することってできますか?」
「は、憑依? なんでまた?」
「だって憑依すれば、先輩も一緒にご飯を食べれるじゃないですか」
身体は私のものだから、栄養はちゃんと私にいくはずだし、問題なし。
桐ヶ谷先輩はちょっと考えたけど、「試してみるか」って私に触れてくる。
「ん? おい、皆元の体に、触れられるぞ」
「本当だ。これも、とり憑かれた影響?」
私も専門家ってわけじゃないから、詳しいことはわからない。
触れるようになった桐ヶ谷先輩の手は冷たく、これはたぶん幽霊だからかな?
「新しい発見だな。けどこの状態でも、憑依なんてできるのか?」
「とにかく、試してみましょう」
って言ったけど。
私はすぐに、考えが足りなかったことを自覚させられる。
桐ヶ谷先輩は正面から、まるで抱き締めるようにしてきたんだもの!
「せ、先輩!?」
「悪い。体に入るってなると、どうしてもこんな感じになる。嫌ならやめとくか?」
「い、いえ。続けてください」
言い出したのは私なのに、ここで投げ出すわけにはいかない。
桐ヶ谷先輩が私を抱き締めるように重なると、その瞬間。
先輩が吸い込まれるように、私の中に入ってきた。
「憑依できたのか?」
(私の口でしゃべってますから、成功です)
「なんだか変な感じだな。つーか皆元、今までもこんな風に憑依されたり、幽霊にとり憑かれて離れられなかったりしたことがあるのか?」
(……少しは。けど大抵は、すぐに出ていきました)
美味しいものをお腹いっぱい食べたいっていう男性に憑依されたときは、夕飯をたくさんおかわりしたら満足して成仏してくれた。
その後お腹を壊して、苦しい目にあったけど。
病気でなくなった女性にとり憑かれたときは、お子さんに一目会いたいという願いを叶えるためその人の家に行って、会わせてあげたっけ。
そんな風に心残りや悩みを晴らすと、幽霊は成仏してくれるんだけど……。
桐ヶ谷先輩の場合は、どうなんだろう?
生霊にとり憑かれたのは初パターンだし、もしも体に戻れない原因が悩みによるものなら、桐ヶ谷先輩の悩みって何?
七星のことが気になるなら、むしろ元の体に戻った方がいいんだけどなあ。
そんなことを考えながら、とりあえず朝食を取る。
憑依した先輩が食べてるんだけど、味は私にも伝わってきた。
「旨いな。またこうして、飯が食えるなんて思わなかったよ。ありがとな」
「ど、どういたしまして」
穏やかな顔でお礼を言ってくれた桐ヶ谷先輩を見て、朝食をもうちょっと多くしてもよかったかもって思った。
それから朝食を食べ終えて、学校に向かう。
もちろん桐ヶ谷先輩は私から離れられないから、一緒に登校することになった。
だけど生霊とはいえ、誰かと一緒に登校するなんて数年単位でなかったから、変に緊張しちゃう。
さらに途中、いつもの道で真夏ちゃんと会ったんだけど、そしたら……。
「ええっ、その人、美子お姉ちゃんの彼氏!?」
なんて言ってきて、ビックリしてひっくり返りそうになった。
真夏ちゃんも幽霊だから、生霊の桐ヶ谷先輩ことが視えるだろうなとは思っていたけど……。
「ち、違う違う違う! 彼氏なんかじゃないってば!」
「……そこまで強く否定しなくてもいいだろ」
あれ、なぜか桐ヶ谷先輩が、不機嫌になっちゃった。
とにかく、真夏ちゃんの誤解を解いてから別れて、学校へ。
いつもは誰かに話しかけられる事もないんだけど、今朝は教室に入ったとたん、先に来ていた拓弥くんが声をかけてきた。
「美子、あの後どうなった?」
「拓弥くん、おはよう。……桐ヶ谷先輩は、私の後ろにいるよ」
「それで、その……昨夜はなにもなかったよな?」
「なにもって?」
周囲の様子をうかがいながら、小声で話す。
普段誰とも話さない私が、拓弥くんとしゃべってるんだもの。
どうしてあの二人が? って顔で見てる子もいるから、聞こえないよう気を付けないと。
「……皆元、拓弥に『あるわけないだろアホ』って言っとけ」
「ええと、先輩は、『あるわけない』って言ってる」
「そっか。まあ、響夜さんなら大丈夫に決まってるか」
どうしてホッとしてるのかわからずに首をかしげたけど、拓弥くんは思い出したように言ってくる。
「美子、その……悪い。お前が幽霊が視えるって言っても、信じてあげられなかった。本当に悪い」
「仕方ないよ。視えないのに、信じるのは難しいもの。けど、もう信じてくれたんだよね」
「当たり前だろ」
だったら、嬉しい。
小学生の頃、私のことを「変な子」って言ってたクラスの子に同意したのを目撃したあの日から、拓弥くんの間に壁ができてしまっていたけど。
長い間あったモヤモヤが、やっと晴れた。
わかってもらえたことが、本当に嬉しい!
「今更だけど、何か困ったことがあったら、俺に言ってくれ。響夜さんの件もあるし、俺にできることなら、なんでも力になるから」
「え? そんな、悪いよ」
「皆元、ここは素直に受け取っておけ。その方が、そいつも喜ぶ」
戸惑う私に言ってくる、桐ヶ谷先輩。
そ、それなら……。
「じゃあ……よろしくお願いします」
「ああ!」
満面の笑みで返事をする拓弥くん。
こんな拓弥くんを見るのは久しぶりで、私まで心がポカポカしてくる。
「よかったな、皆元」
「はい……先輩のおかげです」
桐ヶ谷先輩にとり憑かれたときは大慌てで、これからどうなるか不安だったけど、悪いことばかりじゃない。
……拓弥くんと話してるせいで周りから注目されてるのは、ちょっと緊張するけど。
けどもう一度話せるようになったのは、本当に嬉しいよ!
……だけど、昼休みになって。
「失礼する。拓弥、それに皆元美子さんはいるかな?」
教室にやってきた染谷先輩がそう言ったことで、私は再び注目を集めるのだった。