私の人生は私のものです
12 幸せだと思えること ①
その後、ラファイ伯爵令嬢は兵士によって門の外に追い出された。
少しは反省してくれるといいけど、彼女のあの様子だとどうなるかはわからない。
姿が見えなくなったところで、メイドがお茶を淹れ直してくれた。
甘い花の匂いがふわりと香る温かなお茶を飲むと、心が穏やかになった気がした。
「落ち着いたか」
リファルド様に尋ねられて、カップをソーサーに戻してから頷く。
「はい。興奮してしまって申し訳ございませんでした」
「気にするな。言い返せずに泣いているだけよりも俺は良いと思うしな」
「それはリファルドが公爵令息だから言えることなんだよ。普通の貴族はそういうの無理だって」
「お前は言いたいことを言っているだろ」
呆れた顔をしているリファルド様にゼノンが笑う。
「僕の場合は何かあれば君に頼れるから」
「人を何だと思ってるんだ。俺はお前なんぞ助けないからな」
「そんなこと言って、いつだってフォローしてくれるじゃん。照れるなって」
「鼻を潰されたくなかったら黙れ」
「ああ、こわ」
おどけるゼノンを一睨みしたあと、リファルド様は私に目を向ける。
「本題に入るが、慰謝料の件はどうする? もう関わりたくないだろうから、間に俺が入ってもいい」
「リファルド様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんし、慰謝料は諦めようと思います。あの様子ですと、ラファイ伯爵令嬢からお金が取れるとは思えません」
「オルドリン家から取ろうと思ったら、元夫と関わらないといけなくなるから、それも嫌だということだな」
「そうです。それに、二人はこれから一緒に住むのではないでしょうか」
ラファイ伯爵令嬢は助けを求めてアキーム様の所に行くんじゃないかしら。
だって、彼女には他に頼れる人がいないはずだから。
街の人たちはワイズ公爵領の人だから、私に同情してくれる人が多いのだろうと思っていた。
でも、ゼノンが言うには、あの当時、見ないふりをしていた人たちも大人になって、考え方が変わった人が多いのだと言う。
私を馬鹿にしている人もまだいるのは確かだけど、多くの人はわざと人を嫌な気持ちにさせることをするという行為は許されるものではないし、そのようなことをする人と付き合いたくないという本音を口に出せるようになっているそうだ。
ラファイ伯爵令嬢がワイズ公爵家を敵にまわしたとわかったら、彼女と仲が良かった人達も手のひらを返すんでしょう。
それはそれでどうかと思うけどね。
友人なら悪いことは悪いと言うべきだし、何も言わずに見捨てるのは違うと思うわ。
……友人が一人もいない私が言うのもなんだけど。
「君に連絡を取るには、ゼノンの実家であるジーリン家に連絡を入れれば良いんだな?」
「迷惑をかけると思うので早い内に出ていくつもりです。その時には、こちらから連絡を入れさせていただきます」
「出ていくって言っても当てなんてないんだろ」
ゼノンが眉根を寄せるので苦笑して答える。
「あなたの家にいたら、両親が来るに決まってるもの」
「クズ叔父なんて気にしなくていいって」
「そのクズ叔父以外にも彼女には気がかりがあるだろう」
「ああ、オルドリン伯爵か」
ゼノンが眉根を寄せて舌打ちをした。
「……そうなの。あの人にしてみれば、私は所有物みたいなもののようだから」
私がどう生きるかは、アキーム様次第というようなことを言っていた。
そんなの絶対に嫌だ。
私の人生はわたしのものだ。
自分で望むならまだしも、自分が納得していないのに彼の望むように生きたくなんかない。
「君の人生は君のものだろう。誰かに助言を受けるのは良いが、最終的な判断は君がすべきだ。誰かに決められたものなんて納得できるかどうかわからない」
私が考えていたことと同じことを、リファルド様が言ったので驚いた。
この考えがやっぱり普通の考え方なのね。
「……そうですよね。それは私も思います。ですから、私は私の生きたいように生きようと思います」
「それでいいと思う」
満足したように頷くと、リファルド様は今度はゼノンに話しかける。
「お前はどうするんだ」
「サブリナを僕の家まで送り届けたら、また向こうに戻るよ。仕事が忙しくてさ」
「ゼノン、迷惑をかけてごめんなさい。それから、本当にありがとう」
「どういたしまして。僕は強くなったサブリナが見れて満足だから気にしなくていいよ」
ゼノンは満面の笑みを浮かべて言った。
私が頑なじゃなければ、もっと早くにアキーム様の本性を知ることができたのかもしれない。
恋は盲目と言うけれど、本当にそうだったわ。
さようなら、旦那様。
そして、改めてさようなら、オリンドル伯爵。
私はあなたがいなくても、必ず幸せになってみせます。
あなたは、ラファイ伯爵令嬢、または他の浮気相手の方と、どうぞお幸せに。
少しは反省してくれるといいけど、彼女のあの様子だとどうなるかはわからない。
姿が見えなくなったところで、メイドがお茶を淹れ直してくれた。
甘い花の匂いがふわりと香る温かなお茶を飲むと、心が穏やかになった気がした。
「落ち着いたか」
リファルド様に尋ねられて、カップをソーサーに戻してから頷く。
「はい。興奮してしまって申し訳ございませんでした」
「気にするな。言い返せずに泣いているだけよりも俺は良いと思うしな」
「それはリファルドが公爵令息だから言えることなんだよ。普通の貴族はそういうの無理だって」
「お前は言いたいことを言っているだろ」
呆れた顔をしているリファルド様にゼノンが笑う。
「僕の場合は何かあれば君に頼れるから」
「人を何だと思ってるんだ。俺はお前なんぞ助けないからな」
「そんなこと言って、いつだってフォローしてくれるじゃん。照れるなって」
「鼻を潰されたくなかったら黙れ」
「ああ、こわ」
おどけるゼノンを一睨みしたあと、リファルド様は私に目を向ける。
「本題に入るが、慰謝料の件はどうする? もう関わりたくないだろうから、間に俺が入ってもいい」
「リファルド様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんし、慰謝料は諦めようと思います。あの様子ですと、ラファイ伯爵令嬢からお金が取れるとは思えません」
「オルドリン家から取ろうと思ったら、元夫と関わらないといけなくなるから、それも嫌だということだな」
「そうです。それに、二人はこれから一緒に住むのではないでしょうか」
ラファイ伯爵令嬢は助けを求めてアキーム様の所に行くんじゃないかしら。
だって、彼女には他に頼れる人がいないはずだから。
街の人たちはワイズ公爵領の人だから、私に同情してくれる人が多いのだろうと思っていた。
でも、ゼノンが言うには、あの当時、見ないふりをしていた人たちも大人になって、考え方が変わった人が多いのだと言う。
私を馬鹿にしている人もまだいるのは確かだけど、多くの人はわざと人を嫌な気持ちにさせることをするという行為は許されるものではないし、そのようなことをする人と付き合いたくないという本音を口に出せるようになっているそうだ。
ラファイ伯爵令嬢がワイズ公爵家を敵にまわしたとわかったら、彼女と仲が良かった人達も手のひらを返すんでしょう。
それはそれでどうかと思うけどね。
友人なら悪いことは悪いと言うべきだし、何も言わずに見捨てるのは違うと思うわ。
……友人が一人もいない私が言うのもなんだけど。
「君に連絡を取るには、ゼノンの実家であるジーリン家に連絡を入れれば良いんだな?」
「迷惑をかけると思うので早い内に出ていくつもりです。その時には、こちらから連絡を入れさせていただきます」
「出ていくって言っても当てなんてないんだろ」
ゼノンが眉根を寄せるので苦笑して答える。
「あなたの家にいたら、両親が来るに決まってるもの」
「クズ叔父なんて気にしなくていいって」
「そのクズ叔父以外にも彼女には気がかりがあるだろう」
「ああ、オルドリン伯爵か」
ゼノンが眉根を寄せて舌打ちをした。
「……そうなの。あの人にしてみれば、私は所有物みたいなもののようだから」
私がどう生きるかは、アキーム様次第というようなことを言っていた。
そんなの絶対に嫌だ。
私の人生はわたしのものだ。
自分で望むならまだしも、自分が納得していないのに彼の望むように生きたくなんかない。
「君の人生は君のものだろう。誰かに助言を受けるのは良いが、最終的な判断は君がすべきだ。誰かに決められたものなんて納得できるかどうかわからない」
私が考えていたことと同じことを、リファルド様が言ったので驚いた。
この考えがやっぱり普通の考え方なのね。
「……そうですよね。それは私も思います。ですから、私は私の生きたいように生きようと思います」
「それでいいと思う」
満足したように頷くと、リファルド様は今度はゼノンに話しかける。
「お前はどうするんだ」
「サブリナを僕の家まで送り届けたら、また向こうに戻るよ。仕事が忙しくてさ」
「ゼノン、迷惑をかけてごめんなさい。それから、本当にありがとう」
「どういたしまして。僕は強くなったサブリナが見れて満足だから気にしなくていいよ」
ゼノンは満面の笑みを浮かべて言った。
私が頑なじゃなければ、もっと早くにアキーム様の本性を知ることができたのかもしれない。
恋は盲目と言うけれど、本当にそうだったわ。
さようなら、旦那様。
そして、改めてさようなら、オリンドル伯爵。
私はあなたがいなくても、必ず幸せになってみせます。
あなたは、ラファイ伯爵令嬢、または他の浮気相手の方と、どうぞお幸せに。