私の人生は私のものです

13  幸せだと思えること ②

 伯父様の家に来てから、十日が経った。
 この家には昔から何度か訪れてはいたけど、この屋敷に長く滞在したことはなかった。

 お母様は知らない人に会うことが苦手だったし、お父様は伯父様の前で私に辛く当たることができない。
 だから、招待されてもすぐに帰ることが多かった。

 両親は本当は来たくもなかったみたいだけど、断る理由もないし、断り続けても怪しまれると思ったみたいだ。

 ここでの暮らしは慣れない環境で戸惑うことも多い。
 でも、困ったら誰かが助けてくれるので不安な気持ちになることはなかった。

 辛かった時の気持ちを知っているから、人の優しさを知って、自分も優しくなれるのだということを実感した。

 伯父様達は今まで頑張ってきたのだから、ここではゆっくりすれば良いと言ってくれる。

 でも、お世話になる以上は何かせずにはいられないし、出ていくためにはお金が必要だと話すと、屋敷内での雑用を頼まれた。

 頼まれる雑用もそう大変なものでもないし、衣食住も保証されて、お給料までもらえるのだから恵まれた環境だと言える。

 今日は書斎に置かれていた古い新聞を整理する作業を任されていたので、黙々と作業を進めていると、メイドがやって来た。

「サブリナ様、ワイズ公爵家からお手紙が届いております」
「ありがとう」

 作業の手を止めて、メイドから手紙を受け取る。
 差出人を確認するとリファルド様からだった。

 言葉遣いや態度は俺様といった感じなのに、文字はとても繊細で綺麗だった。

 ……というか、手紙を私みたいに自分で書いたりしないわよね。
 きっと、誰かに代筆を頼んでるに決まっている。

 どうでも良いことを考えながら、封が切られた封筒の中から手紙を取り出した。

 そこには、ラファイ伯爵令嬢のことだけでなく、アキーム様や私の両親の動きが詳しく書かれていた。

 両親は近い内に私に会いに来る予定を立てているらしい。
 これは、伯父様からも話は聞いていた。

 伯父様は来るなと言ってくれているけど、お父様のことだもの。
 勝手にやって来て、私に会わせろとうるさく言ってくる可能性が高い。

 今までは、私が悪くなくても、怒られれば言い返さずに謝るだけだった。

 だけど、今の私は違うわ。
 自分自身が悪かったと思わない限り、絶対に謝らない。
 
 そう心に決めて、数枚ある報告書のような手紙を読み進めていくと、アキーム様が私との離婚を認めないと言っているという文章を読んでしまった。
 
 どうして、そんなことを言うのよ。

 アキーム様は私のことを自分のおもちゃか何かだと勘違いしているんじゃないだろうか。
 私はアキーム様のおもちゃなんかじゃない。

 離婚に異議を申し立てないようにお願いしているんだから、エレファーナ様にはしっかり管理してもらわないといけないわ。

 もし、放置しているだけなら、こっちにも考えがある。

 黒い感情が渦巻いてきたことに気がついて、慌ててアキーム様のことを考えるのはやめた。

 手紙の最後には、伯父様にも、同じことを連絡をすると書かれていた。

 リファルド様は、一見、近づきにくい人に見えるけど、根は優しい人なのかもしれない。

 曲がったことが嫌いなのかもしれないわね。
 だから、私のことも見捨てられないのかも。

 ……いや、ゼノンのせいかしらね。

 でも、それだけで動いてくれる人でもないと思っている。

 ラファイ伯爵令嬢はリファルド様に不満はなかった。
 なのに、浮気をした。

 たとえ、リファルド様の態度が冷たかったとしても、それは浮気をしても良い理由にはならない。
 リファルド様がラファイ伯爵令嬢に怒って、婚約を破棄する気持ちはわかるわ。

 公爵家のメンツというものもあるしね。

 そういえば、どうして、リファルド様の婚約者はラファイ伯爵令嬢だったのかしら。
 もっと、爵位が上の女性でも良かった気がする。

 ラファイ伯爵家って、そんなにも権力がある家なのかしら。

 あとで詳しく話を聞いてみようと考えてから、止めていた作業を再開した。



******



「オルドリン伯爵が君に会いたいと手紙を送ってきているんだがどうする?」

 昼食時に伯父様から尋ねられて驚いた。

 手紙を送らせるだなんて、本当にエレファーナ様は役に立たないわ。
 アキーム様が勝手に送っているのかも知れないけど、それって結局は、息子を止められていないじゃないの。

「……何と書いてきているんですか?」
「自分は離婚を認めていない。サブリナのことを本当に大事にするから、離婚が決まってしまったのなら再婚したいというような内容かな」
「再婚ですって?」
「ああ。信じられないよな。自分の知らない所で話が進められたにしたって、やり直せると思える根性がすごい」
「お断りの手紙を出してもらえますか」
「もちろんだよ。僕宛の手紙だから僕が返す。目先の問題として気になるのは、愚弟の件だ」
「……お父様はしつこい性格ですからね」

 中肉中背で温和な雰囲気を醸し出す、紳士の伯父様はため息を吐いてから答える。

「3日後にはこちらに着くそうだ。来るなと言っても無駄だろうね。来てほしくないなら条件をのめと言ってきている」
「どんな条件でしょうか」
「オルドリン伯爵との再婚だ」
「お父様はどうしても私を不幸にさせたいみたいですね」
「本当に親かと疑ってしまうよ。来るとわかっているんだから、こちらも対策はしておく。それから、ゼノンがこのことをリファルド様に話すと言っていたが、それはいいかな?」
「リファルド様のご迷惑にならなければ結構です」
「わかった。そう伝えておくよ」

 伯父様達に早速、迷惑をかけてしまうことが本当に申し訳なかった。

 大体、お父様もアキーム様も再婚だなんて、どうしてそんな信じられない話を考えることができるのかしら。

 絶対にお断りだわ!

 
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