【書籍化】私の人生は私のものです
18 自分勝手な主張 ②
「お騒がせしてしまい申し訳ございません」
伯父様が謝ると、リファルド様が挑戦的な笑みを浮かべて尋ねる。
「俺の出番がきたのか」
「出番といいますか、来るかもしれないと予想していた人物が現れました」
「面倒だが仕方がない。行ってくるか」
面倒だと言いながらも、笑みが消されていないので、絶対にそう思っていないわね。
私としてはアキーム様にはもう二度と会いたくない。
でも、リファルド様に任せておくだけというのも違う気がする。
私はもうあなたが望んでいる私ではないということを伝えてみよう。
そう思って、リファルド様の後を追いかけると、不思議そうな顔をして立ち止まった。
「どうした。君も行くのか」
「はい。私とアキーム様の問題ですから。リファルド様にお願いするだけでは申し訳ないですし、それに、自分の口からしっかり伝えたほうが良いかと思ったんです」
「まあ、そうだな。二人で会うことは絶対に駄目だが、俺がいるから良いだろう。一発くらい殴っても良いと思うぞ」
「暴力はいけません!」
「それはわかっているが、それくらいしないとわからない相手でもある」
リファルド様は悪い笑みを浮かべて続ける。
「俺が代わりにやってやろうか」
「ぼ、暴力はいけませんってば!」
たぶん、リファルド様は私の反応を見て楽しんでいる。
公爵令息だからって何をやっても良いわけじゃない。
それを理解している人だもの。
でも、どうしてここまで面倒をみてくださるのかしら。
「リファルド様、こんな時になんなのですが、お聞きしても良いですか」
「どうした」
「どうして私の世話を焼いてくださるんですか?」
「……そうだな。最初はオルドリン伯爵とラファイ伯爵令嬢の関係を知ったからだが、ゼノンにうるさく言われたのが一番の理由だろう」
「……ゼノンはなんと言ったのでしょうか」
「目の前の人を助けられないのに、公爵が務まるのかと言われた。別になれんことはないと思うが、まあ、そうだなと納得した」
リファルド様は眉根を寄せて答えた。
「私は本当に運が良かったのですね」
「君がオルドリン伯爵の言いなりのままなら放置していただろう。運が良かったというか、君自身が冷静になれたから力を貸そうと思ったまでだ」
「……冷静になれていなかったら、私を助けなかったということですか」
「恋は盲目と言うからな。オルドリン伯爵に夢中になっているなら、俺がどうにかしようとしても、その時の君にとっては余計なお世話だろう」
「ゼノンも同じようなことを言っていました」
「君がエイトン子爵夫人のようにならなくて良かった」
私もそう思うと言おうとした時には、エントランスホールに着いていた。
執事が手配してくれたのか、外にいたはずのアキーム様の姿が見える。
義姉だったトノアーニ様の姿は見えないから、外で待っているのかもしれない。
「サブリナ! ああ、会えてよかった!」
アキーム様は笑顔で私に駆け寄ろうとした。
でも、私の隣にいるリファルド様に気がついて足を止める。
「ど、どうしてワイズ公爵令息がここにいらっしゃるんですか」
「ここの嫡男とは腐れ縁なんだ。サブリナとは彼を通じて知り合った。今のところは良い友人だ」
今のところ、なんて言葉をわざわざ付けるものだから、私まで驚いてリファルド様を見つめる。
リファルド様は私と目が合うとにやりと笑う。
「迷惑だったか」
「め、迷惑ではありませんが、人をからかうような言い方をするのはやめてください!」
「別にからかったわけではない。事実を述べたまでだ。俺が誰を好きになろうが、オリンドル伯爵のように迷惑をかけなければ良いだろう」
アキーム様の前だから、親密に見せているのだとわかっているのに照れてしまうわ。
「どういうことだ、サブリナ! 君はワイズ公爵令息とどんな関係なんだ!?」
「以前にお話をしたことがあるかと思うのですが、ここの嫡男のゼノンと私は親戚です。そして、ゼノンの友人がリファルド様なのです」
「だ、だからって仲良くするのはおかしいだろう! いや、そのことを責めたりしない! だから、やり直そう!」
意味がわからないわ。
「……アキーム様は私のことをどう思っていたのですか?」
「……どう思っていたとはどういうことかな」
不思議そうな顔をして聞き返してきた、アキーム様に答える。
「私の人生を自分のものだと思っていませんでしたか?」
「それはそうだろう! だって、君は僕の妻なんだ! 夫の言うことを何でもきくのが妻の役目だ!」
リファルド様の眉間の皺が深くなったのがわかった。
でも、口を出そうとしないのは、以前と同じで私が話し終わるのを待ってくれているのだと思う。
「アキーム様。では、私はあなたの妻としては失格です」
「何を言っているんだよ、サブリナ」
「私は、もう、あなたの言うことを聞くのは嫌なんです。私の人生です。どう生きるかは私が決めたいんです!」
「そ、そんな……!」
アキーム様は泣きそうな顔になって私を見つめた。
「もう二度と私に近づこうとしないでください!」
「嫌だよ、サブリナ! 頼む! 再婚してくれ! もう、浮気はしない! いや、元々は浮気なんかじゃないんだ!」
「あなたと再婚だなんてありえません!」
「僕は君が待ってくれている家に帰りたいんだよ! 君が戻ってきてくれないなら、僕は何をするか分からないぞ」
泣き落としでは無理だとわかったのか、アキーム様は戦略を変えて、私を脅すことにしたようだった。
信じられない。
この人にプライドってものはないのかしら。
「俺の前で脅迫とはいい度胸だ」
リファルド様が鼻で笑ったことで、私も冷静になる。
「アキーム様」
「……何かな」
「脅迫めいたお話をされるのでしたら、それこそ、接近禁止命令を出してもらいます」
「そんな! 大袈裟だ!」
アキーム様は情けない声を上げた。
伯父様が謝ると、リファルド様が挑戦的な笑みを浮かべて尋ねる。
「俺の出番がきたのか」
「出番といいますか、来るかもしれないと予想していた人物が現れました」
「面倒だが仕方がない。行ってくるか」
面倒だと言いながらも、笑みが消されていないので、絶対にそう思っていないわね。
私としてはアキーム様にはもう二度と会いたくない。
でも、リファルド様に任せておくだけというのも違う気がする。
私はもうあなたが望んでいる私ではないということを伝えてみよう。
そう思って、リファルド様の後を追いかけると、不思議そうな顔をして立ち止まった。
「どうした。君も行くのか」
「はい。私とアキーム様の問題ですから。リファルド様にお願いするだけでは申し訳ないですし、それに、自分の口からしっかり伝えたほうが良いかと思ったんです」
「まあ、そうだな。二人で会うことは絶対に駄目だが、俺がいるから良いだろう。一発くらい殴っても良いと思うぞ」
「暴力はいけません!」
「それはわかっているが、それくらいしないとわからない相手でもある」
リファルド様は悪い笑みを浮かべて続ける。
「俺が代わりにやってやろうか」
「ぼ、暴力はいけませんってば!」
たぶん、リファルド様は私の反応を見て楽しんでいる。
公爵令息だからって何をやっても良いわけじゃない。
それを理解している人だもの。
でも、どうしてここまで面倒をみてくださるのかしら。
「リファルド様、こんな時になんなのですが、お聞きしても良いですか」
「どうした」
「どうして私の世話を焼いてくださるんですか?」
「……そうだな。最初はオルドリン伯爵とラファイ伯爵令嬢の関係を知ったからだが、ゼノンにうるさく言われたのが一番の理由だろう」
「……ゼノンはなんと言ったのでしょうか」
「目の前の人を助けられないのに、公爵が務まるのかと言われた。別になれんことはないと思うが、まあ、そうだなと納得した」
リファルド様は眉根を寄せて答えた。
「私は本当に運が良かったのですね」
「君がオルドリン伯爵の言いなりのままなら放置していただろう。運が良かったというか、君自身が冷静になれたから力を貸そうと思ったまでだ」
「……冷静になれていなかったら、私を助けなかったということですか」
「恋は盲目と言うからな。オルドリン伯爵に夢中になっているなら、俺がどうにかしようとしても、その時の君にとっては余計なお世話だろう」
「ゼノンも同じようなことを言っていました」
「君がエイトン子爵夫人のようにならなくて良かった」
私もそう思うと言おうとした時には、エントランスホールに着いていた。
執事が手配してくれたのか、外にいたはずのアキーム様の姿が見える。
義姉だったトノアーニ様の姿は見えないから、外で待っているのかもしれない。
「サブリナ! ああ、会えてよかった!」
アキーム様は笑顔で私に駆け寄ろうとした。
でも、私の隣にいるリファルド様に気がついて足を止める。
「ど、どうしてワイズ公爵令息がここにいらっしゃるんですか」
「ここの嫡男とは腐れ縁なんだ。サブリナとは彼を通じて知り合った。今のところは良い友人だ」
今のところ、なんて言葉をわざわざ付けるものだから、私まで驚いてリファルド様を見つめる。
リファルド様は私と目が合うとにやりと笑う。
「迷惑だったか」
「め、迷惑ではありませんが、人をからかうような言い方をするのはやめてください!」
「別にからかったわけではない。事実を述べたまでだ。俺が誰を好きになろうが、オリンドル伯爵のように迷惑をかけなければ良いだろう」
アキーム様の前だから、親密に見せているのだとわかっているのに照れてしまうわ。
「どういうことだ、サブリナ! 君はワイズ公爵令息とどんな関係なんだ!?」
「以前にお話をしたことがあるかと思うのですが、ここの嫡男のゼノンと私は親戚です。そして、ゼノンの友人がリファルド様なのです」
「だ、だからって仲良くするのはおかしいだろう! いや、そのことを責めたりしない! だから、やり直そう!」
意味がわからないわ。
「……アキーム様は私のことをどう思っていたのですか?」
「……どう思っていたとはどういうことかな」
不思議そうな顔をして聞き返してきた、アキーム様に答える。
「私の人生を自分のものだと思っていませんでしたか?」
「それはそうだろう! だって、君は僕の妻なんだ! 夫の言うことを何でもきくのが妻の役目だ!」
リファルド様の眉間の皺が深くなったのがわかった。
でも、口を出そうとしないのは、以前と同じで私が話し終わるのを待ってくれているのだと思う。
「アキーム様。では、私はあなたの妻としては失格です」
「何を言っているんだよ、サブリナ」
「私は、もう、あなたの言うことを聞くのは嫌なんです。私の人生です。どう生きるかは私が決めたいんです!」
「そ、そんな……!」
アキーム様は泣きそうな顔になって私を見つめた。
「もう二度と私に近づこうとしないでください!」
「嫌だよ、サブリナ! 頼む! 再婚してくれ! もう、浮気はしない! いや、元々は浮気なんかじゃないんだ!」
「あなたと再婚だなんてありえません!」
「僕は君が待ってくれている家に帰りたいんだよ! 君が戻ってきてくれないなら、僕は何をするか分からないぞ」
泣き落としでは無理だとわかったのか、アキーム様は戦略を変えて、私を脅すことにしたようだった。
信じられない。
この人にプライドってものはないのかしら。
「俺の前で脅迫とはいい度胸だ」
リファルド様が鼻で笑ったことで、私も冷静になる。
「アキーム様」
「……何かな」
「脅迫めいたお話をされるのでしたら、それこそ、接近禁止命令を出してもらいます」
「そんな! 大袈裟だ!」
アキーム様は情けない声を上げた。