【書籍化】私の人生は私のものです
20 新たな生活
「浮気された側にも原因があると言いたいのはわかった。だが、どうして、浮気を許すような発言をしたんだ? そんなに不満なら、婚約の解消を申し出ればいいだけじゃないか。サブリナの場合だと離婚を言い出せば良い。裏切り行為をするよりかは良いだろう」
「申し訳ございません! わたくしが間違っておりました!」
リファルド様の殺意に怯えきったトノアーニ様は、自分の主張を口にすることはなく、自分が悪いのだと平謝りだった。
リファルド様が誰かを殺したなんて話は聞いたことがないけど、圧がすごいから殺されると思ったみたいだ。
私も最初はリファルド様のことが怖かったから、そうなってしまう気持ちはわからないでもない。
トノアーニ様は私にも何度も謝罪する。
「サブリナさん、今まで本当に申し訳ございませんでした! わたくしは間違ったことをしておりました!」
「許しはしませんけど、反省してくれたことは良かったです」
私が言うと、リファルド様は「納得するまで許す必要はない」と言ってから、改めて、トノアーニ様の浮気された側が悪い発言をまた問い詰め始めた。
感情的にものを言ってはいけないと再認識した瞬間だった。
リファルド様の尋問は数時間続き、トノアーニ様が泣き出したところで終わった。
女性を泣かせるのは、紳士として良くない行為だということと、リファルド様は泣き顔を見るのが嫌いだった。
といっても、嬉し涙や悔し涙、誰かのために泣いたり、誰かを思って泣くことは良いらしい。
トノアーニ様の場合は、怒られて泣いているから嫌みたいね。
泣くくらいなら人を不快にさせる原因を作るなと言いたいのでしょう。
今回の場合は、リファルド様自身はまったく悲しんでいないから、言葉の暴力になってしまったのかもしれないと反省していた。
トノアーニ様は嘘泣きではなく、本当に反省しているようだし、リファルド様は許すことに決めた。
というか、相手にしている時間がもったいないといったところでしょう。
人の気持ちを考えられない人は、人が不快に感じる言葉を簡単に口にしたり行動したりする。
そして、それを悪いことだとは思わないのだ。
トノアーニ様のように浮気されるほうが悪いという発言や、私が嫌がらせをされていたことの場合なら言い返せないのが悪いというやつだ。
そういうことを言う人は、言われた側の気持ちなんて考えない。
もしくは、わざと悲しませるために口にしている。
そんな人のために傷つきたくなんかないし、今となっては傷つくこともない。
だって、私と考え方が違うのだから、無理に合わせる必要はない。
私は自分のことを好きになれるように生きていきたい。
泣いているトノアーニ様を見て思った。
******
リファルド様のおかげで、その日から、アキーム様は手紙もプレゼントも贈ってこなくなった。
かといって、のんびりもしていられないので、私は旅立つ準備を進めた。
旅立ちを明日に迎えた日の昼、ワイズ公爵邸に戻っていたリファルド様が会いに来てくれたので、応接室で話をすることになった。
「オルドリン伯爵だが、君との再婚をまだ諦めていないようだ」
「ラファイ伯爵令嬢と上手くいっていないのでしょうか」
「そうみたいだ。彼は昔の君のような従順な女性が好みなんだと気付いたそうだ」
「もう、私は従順な女性ではないのですが」
「俺に言わされていると思い込んでいるようだ。オルドリン伯爵領の領民の間では、俺が君を奪ったという話が流れてる」
「アキーム様が流したのでしょうか」
「本人は否定しているが、そうだろう」
私のせいで本当に申し訳ない。
このままでは、これからのリファルド様の縁談がまとまらないかもしれない。
座っていたソファから立ち上がって、頭を下げる。
「誠に申し訳ございませんでした」
「気にするな。俺が好きでやったことだ。それにワイズ公爵領の人間は、その噂を信じていない」
「なら、良かったです」
「大変なのは君だ。両親は君との縁を切って平民にさせると言っている」
「縁を切ってもらえるなら嬉しいです。でも、平民が新しい職場で働くことは可能なのでしょうか」
「そのことは心配しなくていい。自分で君の件に首を突っ込んだんだ。最後まで面倒をみる」
「……ありがとうございます。でも、私は平民です。何の繋がりもない、リファルド様に面倒を見てもらうわけにはいきません」
リファルド様の気持ちはありがたい。
でも、婚約者でもなんでもない女性にかまい続けることは、彼にとって良くない噂が立つ可能性が高い。
リファルド様が厳しい表情で私を見つめるので、慌てて話を続ける。
「私は平民になります。仕事だって、平民に任せてくれるかどうかはわかりません」
「それについては手は打ってある。一つ、聞かせてくれ」
「……なんでしょうか」
「俺がやっていることは迷惑か」
「そんなことはありません!」
「なら、どうして遠慮する」
「それは、そうすることが礼儀だからです。それに、ゼノンの親戚というだけで、ここまで色々としていただけるなんて、本当に申し訳なくて」
リファルド様は何度か首を縦に振って、話し始める。
「君の言いたいことはわかった。でも、気にするな。俺が君に興味があるからやっているだけだ」
「……興味、ですか」
「君がこれから、どう強くなっていくのか見てみたい」
保護者のような気持ちになってくれているのかもしれない。
「言っておくが、オルドリン伯爵のように俺の思う通りに生きろなんて意味じゃない。君がどんな選択肢を選ぶのか見てみたいんだ」
「ご期待にそえるように頑張ります」
今はこんなことしか言えない。
口だけじゃなく、行動で示してみせるわ。
「申し訳ございません! わたくしが間違っておりました!」
リファルド様の殺意に怯えきったトノアーニ様は、自分の主張を口にすることはなく、自分が悪いのだと平謝りだった。
リファルド様が誰かを殺したなんて話は聞いたことがないけど、圧がすごいから殺されると思ったみたいだ。
私も最初はリファルド様のことが怖かったから、そうなってしまう気持ちはわからないでもない。
トノアーニ様は私にも何度も謝罪する。
「サブリナさん、今まで本当に申し訳ございませんでした! わたくしは間違ったことをしておりました!」
「許しはしませんけど、反省してくれたことは良かったです」
私が言うと、リファルド様は「納得するまで許す必要はない」と言ってから、改めて、トノアーニ様の浮気された側が悪い発言をまた問い詰め始めた。
感情的にものを言ってはいけないと再認識した瞬間だった。
リファルド様の尋問は数時間続き、トノアーニ様が泣き出したところで終わった。
女性を泣かせるのは、紳士として良くない行為だということと、リファルド様は泣き顔を見るのが嫌いだった。
といっても、嬉し涙や悔し涙、誰かのために泣いたり、誰かを思って泣くことは良いらしい。
トノアーニ様の場合は、怒られて泣いているから嫌みたいね。
泣くくらいなら人を不快にさせる原因を作るなと言いたいのでしょう。
今回の場合は、リファルド様自身はまったく悲しんでいないから、言葉の暴力になってしまったのかもしれないと反省していた。
トノアーニ様は嘘泣きではなく、本当に反省しているようだし、リファルド様は許すことに決めた。
というか、相手にしている時間がもったいないといったところでしょう。
人の気持ちを考えられない人は、人が不快に感じる言葉を簡単に口にしたり行動したりする。
そして、それを悪いことだとは思わないのだ。
トノアーニ様のように浮気されるほうが悪いという発言や、私が嫌がらせをされていたことの場合なら言い返せないのが悪いというやつだ。
そういうことを言う人は、言われた側の気持ちなんて考えない。
もしくは、わざと悲しませるために口にしている。
そんな人のために傷つきたくなんかないし、今となっては傷つくこともない。
だって、私と考え方が違うのだから、無理に合わせる必要はない。
私は自分のことを好きになれるように生きていきたい。
泣いているトノアーニ様を見て思った。
******
リファルド様のおかげで、その日から、アキーム様は手紙もプレゼントも贈ってこなくなった。
かといって、のんびりもしていられないので、私は旅立つ準備を進めた。
旅立ちを明日に迎えた日の昼、ワイズ公爵邸に戻っていたリファルド様が会いに来てくれたので、応接室で話をすることになった。
「オルドリン伯爵だが、君との再婚をまだ諦めていないようだ」
「ラファイ伯爵令嬢と上手くいっていないのでしょうか」
「そうみたいだ。彼は昔の君のような従順な女性が好みなんだと気付いたそうだ」
「もう、私は従順な女性ではないのですが」
「俺に言わされていると思い込んでいるようだ。オルドリン伯爵領の領民の間では、俺が君を奪ったという話が流れてる」
「アキーム様が流したのでしょうか」
「本人は否定しているが、そうだろう」
私のせいで本当に申し訳ない。
このままでは、これからのリファルド様の縁談がまとまらないかもしれない。
座っていたソファから立ち上がって、頭を下げる。
「誠に申し訳ございませんでした」
「気にするな。俺が好きでやったことだ。それにワイズ公爵領の人間は、その噂を信じていない」
「なら、良かったです」
「大変なのは君だ。両親は君との縁を切って平民にさせると言っている」
「縁を切ってもらえるなら嬉しいです。でも、平民が新しい職場で働くことは可能なのでしょうか」
「そのことは心配しなくていい。自分で君の件に首を突っ込んだんだ。最後まで面倒をみる」
「……ありがとうございます。でも、私は平民です。何の繋がりもない、リファルド様に面倒を見てもらうわけにはいきません」
リファルド様の気持ちはありがたい。
でも、婚約者でもなんでもない女性にかまい続けることは、彼にとって良くない噂が立つ可能性が高い。
リファルド様が厳しい表情で私を見つめるので、慌てて話を続ける。
「私は平民になります。仕事だって、平民に任せてくれるかどうかはわかりません」
「それについては手は打ってある。一つ、聞かせてくれ」
「……なんでしょうか」
「俺がやっていることは迷惑か」
「そんなことはありません!」
「なら、どうして遠慮する」
「それは、そうすることが礼儀だからです。それに、ゼノンの親戚というだけで、ここまで色々としていただけるなんて、本当に申し訳なくて」
リファルド様は何度か首を縦に振って、話し始める。
「君の言いたいことはわかった。でも、気にするな。俺が君に興味があるからやっているだけだ」
「……興味、ですか」
「君がこれから、どう強くなっていくのか見てみたい」
保護者のような気持ちになってくれているのかもしれない。
「言っておくが、オルドリン伯爵のように俺の思う通りに生きろなんて意味じゃない。君がどんな選択肢を選ぶのか見てみたいんだ」
「ご期待にそえるように頑張ります」
今はこんなことしか言えない。
口だけじゃなく、行動で示してみせるわ。