【書籍化】私の人生は私のものです

21  新たな生活 ②

 ロシノアール王国の王都までは馬車で10日以上かかった。

 長旅が辛かったのは確かだが、いじめられていた時のことを思い出せば苦にならなかった。

 心の傷というものは、中々癒えない。

 気持ちの持ちようによって変わってくるとは思うけど、その時に感じた怒りや悔しさは私の中では特に残っている。

 その時の不快感に比べたら、長旅の苦痛なんてへっちゃらだわ。

 私がこれから住むことになる寮は王都にある。

 ゼノンも王都に住んでいるし、リファルド様がお世話になる公爵家もある。

 だから、リファルド様とは私が新生活に慣れてきた頃に会う約束をした。

 仕事内容は、とある偉い人のお子さんのお世話をすること。
 子供を育てたことはないけど、お子さんがもうすぐ6歳になる子供だということや、とても聞き分けの良い子なので、苦労することはないと言われている。

 しかも、今、働いている人の休みを作るための人員だから、2日働いて3日が休みという、とても良い環境だ。

 急に体調が悪くなった時は無理せずに休んでも良いらしい。

「これからお世話になります。サブリナと申します」
「はじめまして、ミリアーナと申します。よろしくお願いいたします!」

 待ち合わせた場所は、リファルド様がお世話になるという、デファン公爵家だった。

 私の職場はデファン公爵家になるんだろうか。
 そう思った時、紺色の髪をシニヨンにしたミリアーナ様は私の緊張をほぐすためか、明るい笑顔で話しかけてくる。

「これからお世話をする方に会いに行きましょう。最初は私も緊張しましたが、とても優しい方ですから心配しなくても大丈夫ですよ」
「頑張ります!」

 リファルド様をがっかりさせないためにも頑張らないといけないわ。

 ……と、思っていたのに、目の前の白亜の王城を見て、気持ちが挫けそうになった。

 でも、駄目よ。
 ここで挫けたら、今までの私と変わらない。

「ラシルです。よろしくおねがいいたします」

 王城についた時点でもしやとは思っていたけど、お世話をさせてもらう子供の部屋に案内された時点で確信した。

 ペコリと頭を下げた、可愛らしい男の子は人懐っこい笑顔で話しかけてくる。

「ながたびおつかれさまでした」
「お気遣いいただきありがとうございます。サブリナと申します。これからよろしくお願いいたします」

 ここに来るまでにロシノアール王国のことを調べてきた。

 ラシル様というと王太子殿下の名前と同じだ。

 王城に部屋があるという時点で間違いはない。

 私は王太子殿下のお世話をすることになったのだった。



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