【書籍化】私の人生は私のものです

25  人は変わることができるのか ③

「サブリナ、久しぶりだな。メイリーナから話は聞いたか」
「聞きましたよ。ちゃんとお断りしておきました」

 お父様とアキーム様は繋がっているらしいのだけど、ここにいるのはお父様しかいない。

 どうせなら、一緒に来てくれるほうが手間が省けて済むんだけど、そう上手くはいかなかった。

 リファルド様が少し心配そうな顔で私を見ていることに気がついたので笑顔で話しかける。

「大丈夫です。昔よりは強くなれていますから。それに、今はティアトレイもありますし!」

 警察署を出る前に護衛騎士からティアトレイを返してもらっていた。
 だから、ティアトレイを掲げて言うと、リファルド様は口元に笑みを浮かべた。

 何も口には出さないけど、わかってくれたのだと思う。

 私が目を向けると、お父様は話しかけてくる。

「シルバートレイなんて持ってどうしたんだ」
「必要な時に使おうと思いまして」
「意味がわからない。オルドリン伯爵と再婚して、メイドにでもなるつもりか? それとも、前々からやらされてたのか?」
「どちらもいいえです。お父様、もう私はあなたに用事はないんです。ですので、これで最後にしていただけますでしょうか。本来ならば、先日にお会いした時に最後にするはずだったんです」
「サブリナ、本当にお前は偉そうな口をきくようになったな。お前は俺の娘なんだ。子供は親の言うことを黙ってきいていればいいんだよ!」
「子供といっても、私はもう成人しています。それに、子供だからといって、何でもかんでも親の言うことをきく必要はないと思います」

 シルバートレイを握り直して続ける。

「だって、親が間違っていることだってありますから」
「オレが間違っているわけがないだろう!」
「何度も間違っていましたよ! それにお父様の言う通りにやったとしても、トラブルになった時に責任は取らずに知らんぷりじゃないですか! お父様は私のことを考えているんじゃありません! 自分の感情を優先にしているだけです! お父様にとって私の生き方がおかしくても、私は私の思う道を行くだけです! 理解してくれなんて望みません! ですから、お父様も私とわかり合おうとすることは諦めてください」
「生意気なことを言いやがって! そんな甘い考えで世の中生きていけると思うなよ!」
「生きていってみせます。それに望み通りに生きていない私は悪い娘なんでしょう。それなら、関わり合いにならないことが一番です。お互いに不快な気持ちになるだけですからね。お父様は私のこれからの人生に必要ありません」
「いい加減にしろ! 大人しく、オレの言うことをきくんだ! お前がオルドリン伯爵と再婚しなきゃ、オレの命が危ないんだよ!」

 意味がわからないわ。
 もしかして、アキーム様に脅されているの?

「とにかく一緒に行くぞ!」

 お父様がティアトレイを持っていないほうの腕を掴む。
 これはわざと掴ませた。

 相手から手を出されたなら、正当防衛が成り立つ。

 ――過剰防衛だと言われかねないけど。

 その手を振り払ってから叫ぶ。

「また私に触れたら容赦しませんから」
「何が容赦しないだ。お前に何ができるって言うんだ!」
「できますよ! もう、私は昔の私ではありませんから!」

 あざ笑うお父様の額に向けて、私はシルバートレイの角を両手で叩きつけた。

 ガツンという音のあと「ぎゃあああああ」という断末魔のような叫び声が上がった。

 驚いて後ろに下がると、お父様はその場に崩れ落ちた。

 お父様は地面に寝転ぶようにして倒れ、額を押さえて転げ回っている。

 私のティアトレイに付与された魔法は、触れた人を痺れさせるものだった。
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