【書籍化】私の人生は私のものです

26  人は変わることができるのか ④

 お父様の絶叫が聞こえたのか、警察署の中から人が出てきた。
 リファルド様と一緒に簡単に経緯を説明すると、護衛の兵士が捕まえていた、お父様の身柄を引き取ってくれることになった。

「うああ」

 お父様は痛みに弱いのか、額を押さえて未だに喚いている。

 もしくは、ティアトレイの効力がよっぽどすごいのでしょうね。

 足がしびれたりすると動けなくなるけど、頭の近くだから、脳に支障をきたしているのかもしれない。

 下手をすると死んでしまうかもしれないわ。

 キール様は殺意が強ければ、効力が強いと言っていた。
 
 お父様がまだ動けるということは、私の殺意はそう強くない。

 どちらかというと、かかわりたくないという思いなんだろう。

 人を殺める勇気は私にはないし、そこまでする権利はない。
 だって、私は殺されていないもの。

 やっても良いのは精神的に追い詰めることくらいだろうか。

 されたことをやり返すことも良くないと言われているし、死刑制度もいろんな国でどんどん廃止されていっている。

 私がお父様を殴ったことも警察の人からは注意された。
 警察署の前でだから余計によね。

 もっと、違う場所にすれば良かったかしら。

 ……って、そんな問題ではないわね。

 しばらくすると、お父様は額の痛みはなくなったようだけど、上手く話せないとのことで、聴取に時間がかかると警察の人は教えてくれた。

「父はどうなるのでしょうか」
「あなたの御母上に命令した罪で改めて捕まえます。実行犯よりも命令したほうが罪が重いんですよ」
「それは聞いたことがあります」

 実行犯よりも指示を出した人間のほうが罪が重くなる。

 他国はどうかわからないが、私が住んでいた国やロシノアール王国では、そういうことになっている。

 警察との話を終えたあと、リファルド様がティアトレイを見て話しかけてくる。

「それにしても、すごい効力なんだな」
「はい。魔法ってすごいですね」
「そうだな。他の国では平民も簡単な魔法を使える国もあるというから、使えない俺にしてみれば羨ましいもんだ」
「戦争で魔法を使うことはあるんですか?」
「ある。だから、俺達は戦場近くに行っても参加はしない」
「最初から勝ち目のない戦いには挑まないということですね」
「ああ。だから、同盟国が必要なんだ」

 魔法を使える人が多い国から攻められたら、使えない国の人はどうしようもない。

 だから魔法を使える国と同盟を結んでいて、それが各国への抑止力になっている。

 それにしても、私の物理的な攻撃力はまだまだ弱い。

 もっと力をつけないといけないわ。

 私にはまだ、最大の敵が残っている。
 力には力で対抗する。

 ティアトレイももっと上手く扱えるようにならないと駄目ね。

 初めて人を殴ったから、未だに胸がドキドキしている。

「大丈夫か?」

 今までやったことのないことをしたせいか、かなり胸がドキドキしている。
 そのことがわかるのか、リファルド様が顔を覗き込んできた。

「はい。そう簡単に強くはなれませんが、まずは、お父様の言いなりにならなくなった私は少し変われたかなと思うのですが、どうでしょうか」
「そうだな。君の母親のような状態から今の君になったのなら、かなり変われたと思う」
「あとは、自分で自分を好きだと思えるようになりたいです」
「そう思えることは良いことだ。自分なんか嫌いだと言う人もいる。でも、俺は生きている以上、誰かの望み通りに生きるのではなく、自分で選んだ人生を歩む人を応援したくなる」

 リファルド様が優しい笑みを浮かべて言った。

 こんな素敵なリファルド様を見れたのは、なんだかご褒美をもらった気分だわ。

 今の私は前向きな気持ちになっている。

 でも、お母様は前に進むどころか後退しようとしている。

 今回の件で目を覚ましてくれるだろうか。

 私は私で小さな一歩でしかないけど、今は良しとしよう。

 お父様はこのまま、国外退去させられるはずだ。

 アキーム様はどう動くかしら。

 リファルド様と一緒にいるところを見られているから、きっと連絡するでしょうね。

「あの、リファルド様」
「俺のことは心配するな。次が本番だぞ」
「はい。アキーム様だけでなく、エレファーナ様も出てくる可能性もありますから」
「そのとおりだ」

 顔を見合わせると、リファルド様は話題を変える。

「立ち話もなんだし、レストランにでも行くか。予約をしているんだ」

 遠慮しようかと思ったけどれ、予約をしているのなら断るほうが迷惑だと思い、快くお誘いを受けることにした。


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