【書籍化】私の人生は私のものです

27  私の人生は私のものです

 お父様のしびれはいつまで経っても消えないらしく、限界がくるまで眠ることもできないそうだ。

 お父様とお母様は、二度とロシノアール王国に入国することができなくなった。
 そして、二人のせいでロシノアール王国は他国の人が入国する時の条件を厳しくしたため、多くの人から恨まれることになった。

 特に裏取引をしていた人間には大打撃だったようだ。
 取り締まりが厳しくなり、多くの人間が捕まった。

 悪いことをしていたのだから捕まるのはしょうがない。
 でも、そういう人達は、私のような考えにはならない。

 お父様のせいで、仲間が捕まったと怒り、お父様は今までよりも多くの人から命を狙われることになった。

 お母様は最初はお父様に付いていっていた。
 でも、ある時、捕まりそうになったお父様はお母様を囮にして自分だけ逃げた。

 お母様は悪い人間に捕まり、暴行されそうになったけれど、お父様達を監視している人達はそんな状況を黙って見ているわけにもいかず、警察に連絡をしたため、事なきを得た。

 現在のお母様は怯えていて、何も話せる状態ではないらしい。

 暴漢に襲われそうになったことなんて、普通の人でもかなりのショックのはずだ。
 しかも、お父様に裏切られたのだから、心が弱いお母様にはかなりのダメージだと思う。

 ただ、この出来事でやっと、お母様はお父様から離れる決意をした。
 問題だったのが、行くあてもないために私にすり寄ろうとしてきたことだ。

 私が住んでいた国の警察から連絡があり、身柄を引き取ってほしいと言われた。
 でも、お断りした。

 保釈金を払うつもりもないと伝えると、無料の就職支援施設に送られることになった。

 就職支援施設といっても色々とあって、お母様が行くところはホームレスの人ばかりが集まっている、寮が完備されている施設だった。

 一人にしておくと危険だと判断され、状態が落ち着くまでは監視されることになる。

 できれば、そこまで心が弱ってしまう前に、お父様から逃げるという道を選んでほしかった。

 逃げることは良くないと思う人もいるだろうけれど、私は逃げても良いと思っている。
 だって、自分の人生なんだもの。

 逃げて新たな道を探せばいい。
 人にどうこう言われる筋合いはない。 

 自分の考えは相手が親であろうがなんだろうが、他の人に強いられるべきものではないのだから。

 ――といっても、他人のことを気にして我慢してしまう人が多いのよね。




*****


 
 今日は戦地に赴いていたリファルド様が戻られる日で、キール様も戻って来るから一緒にお出迎えをしようと、ミリー様に誘われて、デファン公爵家にお邪魔していた。

「ミリー様はキール様の婚約者だからお出迎えはわかりますが、私はどうなんでしょうか。お世話になっていますから、何かしなければならないのは確かですが、お出迎えされても喜んでもらえるかどうか心配です」
「キール様からの手紙では、リファルド様はオフの時はサブリナ様のことをいつも気にしているようですし、出迎えたら喜ばれると思いますよ」
「そう思うようにします」

 私が頷くと、ミリー様は話題を変えてくる。

「そういえば、サブリナ様の元夫のアキーム様は今は大人しくしているんですか?」
「ええ。私がロシノアール王国にいることがわかったので、接触しようとしているようですが、お父様のせいで入国審査が厳しいため時間がかかっているみたいです」
「問題の国でもありますから、何日もかけているんでしょうね」
「はい。しかも、ワイズ公爵家と折り合いの悪い公爵家にすり寄ったみたいです。今の段階ですと、アキーム様は罪を犯していませんから、公爵家の力も働いて入国はできてしまうでしょう」
「そういえば、サブリナさんとリファルド様は婚約しないのですか?」

 ミリー様が不思議そうな顔で聞いてくるので、慌てて首を横に振る。

「私は平民ですから、公爵家の嫡男の婚約者になるなんて不可能です。しかも、一度、結婚までしてますから」
「再婚する人なんてたくさんいますよ。それに、元夫が酷い人だったことは他の人も知っているのでしょう?」
「それはそうですが、どう考えても難しいはずです」
「偉いからこそ、無理がきくというのもありますよ。元夫が入国できるかもしれないんですから」

 ミリー様が苦笑した時、応接室の扉がノックされた。

 リファルド様たちが帰ってきたのかと思ったら違った。
 訪ねて来たのは情報屋だった。
 情報屋というのは、その名の通り、情報を売り買いする人間のことで、リファルド様が雇った若い男性だった。

 緊急の話だと言うので聞いてみると、アキーム様と彼の母親のエレファーナ様のロシノアール王国への入国が認められたという話だった。

 いよいよ、本番といったところだわ。



 
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