【書籍化】私の人生は私のものです

29  私の人生は私のものです ③

 アキーム様からの手紙には、宿屋に返事を送ってくれと書かれていたので、こちらが指定した場所と日時でなら、会っても良いと返した。

 私がすんなりと会うことを認めたことに警戒しているような返事がきたけれど、断ってはこなかった。

 現在、ラファイ伯爵令嬢がエレファーナ様のターゲットだから、彼女も連れてきているようだ。

 自分も私と同じ目に遭ってみて、彼女はどう感じているんだろうか。

 そのうち恐ろしいことになる気もする。

 でも、そうなったとしても、自業自得だと思ってしまう私は冷たい人間なのかもしれない。



******


 当日、私達はレストランで会うことにした。
 個室にすべきか迷ったけど、護衛を入れたがらない可能性があるため、店を貸し切ってもらった。

 キール様のお家が経営するところだったので、融通が利いたのだ。
 店の中に集まってくれるお客様は全て関係者で、証人になってくれる人ばかりだ。
 警察関係者も紛れ込んでいるというので、もし、アキーム様達が悪事を働いていたことを暴露したら、彼らの人生はそれで終了ということになる。

「久しぶりね、サブリナさん」

 案内された席に着くと、エレファーナ様が顔で話しかけてきた。

 周りに人がいるから、よそゆきの顔をしているみたいだ。
 エレファーナ様の隣にはアキーム様が座っている。

 ラファイ伯爵令嬢の姿は見えない。
 ここには彼女を連れてこなかったみたいだ。

「お久しぶりです、エレファーナ様。あの時の約束を守っていただけなくて残念です」
「しょうがないじゃないの。アキームがこの状態なんだもの」

 エレファーナ様は少しふっくらしたように見えるけれど、アキーム様は以前よりも痩せていて憔悴しているように見える。

「何かあったんですか」
「あなたのせいよ。あなたがいなくなってから、アキームは誹謗中傷に悩まされているの!」
「誹謗中傷?」

 聞き返すと、エレファーナ様が話し始める。

「そうよ。彼があなたにひどい対応をしていたことに対して、最低な男性だとか言われるようになったのよ」
「酷いことをしたというのは間違ってはいないでしょう。それに誹謗中傷をしている人達がやっているようなことをエレファーナ様はしていますよね」
「私のことはどうでもいいのよ! アキームは人の悪口は言っていないわ! だから、他の人間がアキームの悪口を言うことは許せない!」

 エレファーナ様がすごい剣幕で叫んだ。

「アキーム様のことは可哀相だと思えるのに、あなたが攻撃した人のことは可哀想とは思えないのですか」
「当たり前でしょう。おかしなことを言うほうが悪いのよ!」
「めちゃくちゃなことを言っていることを、自分でわからないのですか?」
「めちゃくちゃなことなんて言っていないわ。劣っている人間が偉そうにするんじゃないわよ!」

 エレファーナ様は立ち上がり、私を睨みつけて続ける。

「私のように賢い人間は、あなたのような人間をクズだと思っているの」
「別にあなたにどう思われてもかまいません。ところで、どうしてクズである私と関わろうとするんですか? それが不思議です。嫌なら関わらなければ良いでしょう。そんなこともわからないんですか?」
「クズだと認識しろと言っているだけよ!  教えてあげているんだから親切でしょう!」
「余計な御世話です。自己満足にも程があるでしょう」
「なんですって!?」

 エレファーナ様がテーブルに手を叩きつけた時、アキーム様が叫ぶ。

「もうやめてくれ!」

 立ち上がったアキーム様は、私に訴えかける。

「僕が悪かった! 謝るから帰ってきてくれ! ベルと君なら、君のほうが僕には合うんだよ!」
「はあ?」

 あまりの勝手な言い分に、思わず間抜けな声が出てしまった。

「ベルはワガママばっかりで口うるさいんだ。あれも駄目、これも駄目って心が安らぐ日がないんだよ。やっぱり、僕には君しかいないって気がついた。失って気が付くものがあるって言うだろう? 僕はそのタイプなんだ!」
「無理です。あなたの元には戻りません。大体、こうやって会うこと自体もおかしいんです」
「でも、君は会ってくれた。まだ、僕に未練があるということだろう?」
「そう取られてしまったのであれば、私の態度に問題があるのだと思います。申し訳ございません。私はあなたとよりを戻すつもりはありません」
「サブリナ! 言うことを聞くんだ!」

 声を荒らげるアキーム様を見て、エレファーナ様と彼はやっぱり親子だと確信した時、ウエイターがやって来ると私に話しかけてきた。

「ご注文の品をお持ちいたしました」

 私の目の前に置かれたのは、私専用のティアトレイだった。
 どうしてシルバートレイが?

 そんな疑問と聞き覚えのある声に驚いて見上げてみると、ウエイターだと思った彼は、髪型を変え、化粧までしたゼノンだった。
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