私の人生は私のものです
5 公爵令息の思惑 2
ワイズ公爵令息は、旦那様と一緒に私のことも社会的に潰すつもりなのだろうか。
巻き込まれるなんて絶対に嫌。
警戒しながらも、ラファイ伯爵令嬢の答えを待った。でも、中々、彼女は答えようとはしない。
しびれを切らしたワイズ公爵令息が急かす。
「俺も暇じゃないんだ。何も言うことがないのであれば帰らせてもらう。婚約破棄の手続きをしないといけないんでな」
「お待ちください! お願いです! 改めてお話する機会をちょうだいできませんか! ちゃんとお話したいんです!」
「嫌だ」
「えっ」
断られると思っていなかったのか、ラファイ伯爵令嬢は口を大きく開けて呆然としている。
ワイズ公爵令息は冷笑し、おどけたように首を傾げる。
「どうして悪いことをした奴の都合に合わせないといけないんだ。合わせないといけない理由を教えてくれ」
「わ、悪いことはしていないんです! 皆さま、聞いてくださいませ! 本当に私とオルドリン伯爵は何の関係もないのです!」
「うそ」
『嘘をつかないで』と言おうとした時、ワイズ公爵令息から睨まれた。
今は口に出すなということなの?
逆らう勇気はないし、逆らったとしても自分に良いことにならないことはわかっている。
素直に口を閉ざすと、ワイズ公爵令息は視線を私からラファイ伯爵令嬢に移した。
「信じられないな。というか、俺が感情的に婚約破棄をしたとでも思っているのか」
「えっ」
また、ラファイ伯爵令嬢は間抜けな声を上げた。
それはそうよね。
婚約破棄だなんて、自分ひとりで判断して良いものではない。
私とは違って、ワイズ公爵令息はわかっていて、二人が密会している場所に行ったんだわ。
私が行こうとしたから、あの場に姿を現したのかもしれない。
……そういえば、隣国の駐在員として働いている、私のいとこのゼノンは、ワイズ公爵令息と仲が良いと聞いている。
私の話を聞いて調べた時に、ラファイ伯爵令嬢が浮かんできたのかもしれない。
だから、調べたんじゃないかしら。
それならそれで、どうして私に言ってくれなかったのよ。
ゼノンは貴族とは思えないくらいに口が悪くて、お調子者のようなところがある。
でも、根は真面目で、昔から私みたいな人間にも優しかったのに――
……そうか。
優しいから言えなかったんだわ。
伯父様達が私を傷つけないように真実を隠しているという考えが頭になかった。
ワイズ公爵令息はきっと、ゼノンから私のことを頼まれたのね。
でも、旦那様が自分で白状してしまったから意味がなくなった。
だから、ワイズ公爵令息は攻め方を変えて、旦那様も巻き込んだのね。
このままでは、せっかくの伯父様達の配慮が無駄になってしまう。
なら、私自身の準備が整うまでは、従順なふりをし続けなくちゃ。
考えている間に、ワイズ公爵令息は話し始める。
「ラファイ伯爵令嬢、もう、諦めろ。今までのことは全て調べてある。例の彼との関係もな。この目で見るまで泳がせていたが、警戒心がなさすぎて助かったよ」
「な、え、そ、そんな、その」
ラファイ伯爵令嬢は助けを求めるように旦那様を見た。
「その、誤解です! 僕と彼女は昔からの、そう、家族ぐるみの付き合いなんです!」
「……そうだったんですか?」
さっきの二人の会話からすると、この話は嘘ではない。
ここは反応すべきところだし、私自身も知りたい話だった。
初めて聞いたふりをして尋ねると、旦那様は頷く。
「え、あ、そうなんだ。彼女の母と僕の母の仲が良くって」
「……それは知りませんでしたわ。それなのに止めてくれなかったんですね」
「止める?」
不思議そうにする旦那様に答える。
「学生時代にラファイ伯爵令嬢からいじめられていると伝えていましたよね」
私の発言で、静かだった会場内がざわめいた。
ラファイ伯爵令嬢は焦った顔で叫ぶ。
「そ、そんな! いじめだなんて人聞きの悪いことを言わないでください! サブリナさん! あなた、伯爵令嬢にそんな失礼なことを言っていいと思っているの!?」
「事実を口にしたまでです」
「嘘をつかないでと言っているの! あなたのことは私の父に報告させてもらいますから!」
怖くない。
今の彼女は追い詰められている。
過去のことを調べられたら、いじめの目撃証言が出てきて、謝らなければならなくなるのは彼女だ。
子供の時とは違い、今は私が有利な立場にある。
自然と笑みがこみ上げてきた。
「どうぞ、報告なさってください」
「な、な、どうして笑っているのよ!」
「学生時代、泣いてばかりいたら、泣くことしか能が無いのかと、あなたから言われましたので笑うことにしました」
「嘘よ!」
いじめをしていたことが大勢に知られては困るのか、ラファイ伯爵令嬢はすごい形相で叫んだ。
それだけ動揺していたら、本当のことだと言っているようなものよ。
「嘘ではありません。何度も言いますが、どうぞ私の言ったことを、あなたのお父様に報告してくださいませ」
「サブリナ、どうしたんだ。恐怖でおかしくなってるのか? もう、帰ろう」
旦那様は逃げ出したくてしょうがないらしい。腹が立つのは私のせいにして帰ろうとしていることだ。
旦那様の望み通りにしたくないけれど、今は私も色々と頭を整理したいので帰ることにする。
「ラファイ伯爵令嬢、あなたがワイズ公爵令息から婚約破棄をされてしまったという話が、明日の新聞に載ることを楽しみにしていますわ」
「なんてことを言うのよ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ、ラファイ伯爵令嬢の隣で、ワイズ公爵令息は満足そうな笑みを浮かべた。
巻き込まれるなんて絶対に嫌。
警戒しながらも、ラファイ伯爵令嬢の答えを待った。でも、中々、彼女は答えようとはしない。
しびれを切らしたワイズ公爵令息が急かす。
「俺も暇じゃないんだ。何も言うことがないのであれば帰らせてもらう。婚約破棄の手続きをしないといけないんでな」
「お待ちください! お願いです! 改めてお話する機会をちょうだいできませんか! ちゃんとお話したいんです!」
「嫌だ」
「えっ」
断られると思っていなかったのか、ラファイ伯爵令嬢は口を大きく開けて呆然としている。
ワイズ公爵令息は冷笑し、おどけたように首を傾げる。
「どうして悪いことをした奴の都合に合わせないといけないんだ。合わせないといけない理由を教えてくれ」
「わ、悪いことはしていないんです! 皆さま、聞いてくださいませ! 本当に私とオルドリン伯爵は何の関係もないのです!」
「うそ」
『嘘をつかないで』と言おうとした時、ワイズ公爵令息から睨まれた。
今は口に出すなということなの?
逆らう勇気はないし、逆らったとしても自分に良いことにならないことはわかっている。
素直に口を閉ざすと、ワイズ公爵令息は視線を私からラファイ伯爵令嬢に移した。
「信じられないな。というか、俺が感情的に婚約破棄をしたとでも思っているのか」
「えっ」
また、ラファイ伯爵令嬢は間抜けな声を上げた。
それはそうよね。
婚約破棄だなんて、自分ひとりで判断して良いものではない。
私とは違って、ワイズ公爵令息はわかっていて、二人が密会している場所に行ったんだわ。
私が行こうとしたから、あの場に姿を現したのかもしれない。
……そういえば、隣国の駐在員として働いている、私のいとこのゼノンは、ワイズ公爵令息と仲が良いと聞いている。
私の話を聞いて調べた時に、ラファイ伯爵令嬢が浮かんできたのかもしれない。
だから、調べたんじゃないかしら。
それならそれで、どうして私に言ってくれなかったのよ。
ゼノンは貴族とは思えないくらいに口が悪くて、お調子者のようなところがある。
でも、根は真面目で、昔から私みたいな人間にも優しかったのに――
……そうか。
優しいから言えなかったんだわ。
伯父様達が私を傷つけないように真実を隠しているという考えが頭になかった。
ワイズ公爵令息はきっと、ゼノンから私のことを頼まれたのね。
でも、旦那様が自分で白状してしまったから意味がなくなった。
だから、ワイズ公爵令息は攻め方を変えて、旦那様も巻き込んだのね。
このままでは、せっかくの伯父様達の配慮が無駄になってしまう。
なら、私自身の準備が整うまでは、従順なふりをし続けなくちゃ。
考えている間に、ワイズ公爵令息は話し始める。
「ラファイ伯爵令嬢、もう、諦めろ。今までのことは全て調べてある。例の彼との関係もな。この目で見るまで泳がせていたが、警戒心がなさすぎて助かったよ」
「な、え、そ、そんな、その」
ラファイ伯爵令嬢は助けを求めるように旦那様を見た。
「その、誤解です! 僕と彼女は昔からの、そう、家族ぐるみの付き合いなんです!」
「……そうだったんですか?」
さっきの二人の会話からすると、この話は嘘ではない。
ここは反応すべきところだし、私自身も知りたい話だった。
初めて聞いたふりをして尋ねると、旦那様は頷く。
「え、あ、そうなんだ。彼女の母と僕の母の仲が良くって」
「……それは知りませんでしたわ。それなのに止めてくれなかったんですね」
「止める?」
不思議そうにする旦那様に答える。
「学生時代にラファイ伯爵令嬢からいじめられていると伝えていましたよね」
私の発言で、静かだった会場内がざわめいた。
ラファイ伯爵令嬢は焦った顔で叫ぶ。
「そ、そんな! いじめだなんて人聞きの悪いことを言わないでください! サブリナさん! あなた、伯爵令嬢にそんな失礼なことを言っていいと思っているの!?」
「事実を口にしたまでです」
「嘘をつかないでと言っているの! あなたのことは私の父に報告させてもらいますから!」
怖くない。
今の彼女は追い詰められている。
過去のことを調べられたら、いじめの目撃証言が出てきて、謝らなければならなくなるのは彼女だ。
子供の時とは違い、今は私が有利な立場にある。
自然と笑みがこみ上げてきた。
「どうぞ、報告なさってください」
「な、な、どうして笑っているのよ!」
「学生時代、泣いてばかりいたら、泣くことしか能が無いのかと、あなたから言われましたので笑うことにしました」
「嘘よ!」
いじめをしていたことが大勢に知られては困るのか、ラファイ伯爵令嬢はすごい形相で叫んだ。
それだけ動揺していたら、本当のことだと言っているようなものよ。
「嘘ではありません。何度も言いますが、どうぞ私の言ったことを、あなたのお父様に報告してくださいませ」
「サブリナ、どうしたんだ。恐怖でおかしくなってるのか? もう、帰ろう」
旦那様は逃げ出したくてしょうがないらしい。腹が立つのは私のせいにして帰ろうとしていることだ。
旦那様の望み通りにしたくないけれど、今は私も色々と頭を整理したいので帰ることにする。
「ラファイ伯爵令嬢、あなたがワイズ公爵令息から婚約破棄をされてしまったという話が、明日の新聞に載ることを楽しみにしていますわ」
「なんてことを言うのよ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ、ラファイ伯爵令嬢の隣で、ワイズ公爵令息は満足そうな笑みを浮かべた。