行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
はじまり
 思い返してみると、私の人生良いことなんて一つも無かった。

 不幸な星の下に生まれた人間に幸せは訪れないということなのだろうか。

 失う物も無い、悲しむ人も居ない私の最期もまた、これが一番正しい選択なのかもしれない。


「……生まれ変わったら……幸せになれるのかな?」

 深夜、繁華街から少し外れた裏通りにある廃ビルの屋上へ上がって来た私は、壊れたフェンスを越えて建物の縁に立つ。

 段差があって、そこを登れば最後。

 それより先に足場は無い。

 ここへ来るまでは月や星が夜空を照らしていたのだけど、今はちょうど雲で隠れて見えなくなっていて、まるで私の心みたいに真っ暗闇。

 ひとまず段差に登らず恐る恐る下に視線を向けると、この下はビルとビルの間の細い通路なので人も通ることが無いゴミ溜めのような場所ということもあって、地面すら見えない混沌とした暗闇が広がっていた。

 だけど、地面が見えるより、きっと見えない方がいい。

 その方が飛び降りる勇気も出るだろうから。

 一度そこから離れ、持っていたハンドバッグと履いていた靴を揃えて置いた私は、震える身体でもう一度縁へと立とうとしたそんな時、少し離れた場所からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてきた事で私は動きを止めた。
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