行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
 けれど、行き場の無い私を拾ってくれた相嶋さんには感謝してるし、少なくとも悪い人には思えないので、今は彼を頼るしか無い。

(……それにしても、相嶋さんって何者なんだろ……)

 蛇口を捻り、シャワーヘッドから流れるお湯を頭から掛けた私は相嶋さんが何者なのかを考えた。

 そもそも、彼は怪我をしていて、そんな彼を目の当たりにした渡利さんたちは特に驚く様子も無かったし、渡利さんたちを『舎弟』と呼び、彼らは相嶋さんを『兄貴』と呼んでいる。

 怪我をするようなことは日常茶飯な環境にあって、上下関係がハッキリしている…… そこから導き出される答えと言えば、あまり考えたくは無いけど、もしかしたら相嶋さんたちは何かの組織に属する人たちなのかもしれない。

 しかも、その組織というのは恐らく……普通では無い、何か。

(……やっぱり……『ヤ』の付く世界の人……なのかな?)

 これまで、そういった人との付き合いが無かった私は若干の戸惑いが生じたものの、まだハッキリ確認した訳でもないのに勝手な判断でひと括りにするのは違うと思うし、助けてくれて家に置いてくれる優しい人柄を信じたいと思っていたので、仮に彼が極道の人間だとしても関係無いと、戸惑う気持ちを落ち着かせた。

 シャワーを浴び終えて浴室から出ると、既にタオルと着替えが用意されていた。

 身体と髪を拭いて下着を着け、いざ用意されているTシャツを着ようと手に取ると、それは人気テーマパークのキャラクターの絵が描いてあるTシャツで、何故こんな物があるのか不思議に思いつつも、私はそれに着替えて脱衣所を出た。

 すると、

「あ、そのTシャツ、心ちゃんには丈が長いからワンピースみたいになってちょうど良かったね」

 脱衣所の向かい側の壁に寄りかかって立っていた渡利さんが私の姿を見るなり笑顔を向けてそう言った。
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