行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
 寮を追い出され、行き場を失った私は築年数の古い格安のアパートを借りて、生活の為にとある個人経営の小さな飲食店でアルバイトを始めた。

 そこで知り合った三つ年上の料理人の彼は良くしてくれて、色々と力になってくれた。

 半年も経つ頃には付き合おうと言われ、相手を信じきっていた私は頷き、彼が私のアパートに転がり込む形で半同棲を始めていた。

 けれど、交際を始めてから数ヶ月後、彼は突然仕事を辞め、アパートにも帰って来なくなり、連絡も取れなくなった。

 しかも、私が留守の間にこれまで貯めていたお金を持ち去ってしまい、私は貯金すら失うことになった。

 更に不幸は続き、私が働いていたお店が閉店することになって仕事も失くなり、またしても不幸のどん底へと落とされた。

 不幸続きで流石に自分の運命を呪い、全てがどうでもよくなってしまって死ぬことを考えてからひと月程死に場所を探していた私はあの廃ビルに辿り着いたのだ――。


「――ッ!!」

 眠りに就いてから暫くして、私は目を覚ました。

 過去にあった色々なことを夢に見て、悲しくなった私の瞳からは、涙が溢れていた。

 すると、ベッドから少し離れた場所にある机に人の気配を感じ、その誰かは椅子から立ち上がるとこちらへ歩み寄り、電気のスイッチが押されたことで辺りが照らされて目の前に居るのが相嶋さんだと分かった。

「相嶋……さん」
「大丈夫か? 酷く魘されていたようだが」
「……はい、あの、少し嫌な夢を見てしまって……けど。もう大丈夫です。それよりも、相嶋さん、戻りは朝になると仰っていましたけど、随分お早いんですね」
「ああ、まあな」
「それなら、私がベッドを使わせて貰うのは申し訳無いので退きますね……」

 相嶋さんが戻って来たのなら彼がベッドを使うべきだと思った私がベッドから降りようとすると、

「構わない、俺のことは気にせずそのままベッドを使え」

 そう言われて押し戻されてしまった。
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