行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
「で、でも……」
「俺はまだやることがあってベッドは使わねぇから遠慮すんな」

 そう言って相嶋さんは再び明かりを消して机へと戻って行ったので、私はそのままベッドを使わせて貰うことにしたのだけど――

(……ね、眠れない……)

 一度目が覚めてしまった私は眠気が飛んでしまったようで眠れなくなってしまう。

 相嶋さんは戻って来たばかりだったのか、机にあるノートパソコンを開くと側にあるライトを点けて手元を照らし、何やら作業を始めていく。

 何度か寝返りを打ちつつもやっぱり眠れなくて、どうしようかと悩んでいると、「眠れないのか?」という声が掛けられた。

「……はい、その……目が冴えてしまって……」

 私がそう答えながら身体を起こすと相嶋さんは作業を中断して再度こちらへ歩いて来て、ベッドの縁に腰掛けた。

「そうか。それなら少し話でもするか?」
「え? でも、相嶋さんはお仕事があるんじゃ……」
「急ぎじゃねぇから大丈夫だ」
「そうですか……それなら良かったです」

 眠れない私に気を遣ってくれたのか、相嶋さんと話をする機会が出来たので、折角だから色々話を聞いてみることにした。

「あの、それじゃあ一つ聞いてもいいでしょうか?」
「何だ?」
「……相嶋さんはどうして、あの廃ビルの屋上に居たんですか?」
「まあ、それを話すには色々なことを話さなきゃならねぇんだけど、結論から言うと、とある連中に見つからねぇよう身を隠してた。普段なら隠れたりはしねぇけど、あの時は古傷が開いて痛みもあったからな、隠れてやり過ごすのが一番だと判断してのことだ」
「そうだったんですか……」

 ビルの屋上に居た理由も知りたかったことではあるけれど、本当に聞きたいことは別にあって、それをどう切り出そうか迷っていると相嶋さんの方から、

「お前が聞きたいのは、そんなことじゃねぇんだろ?」

 全てを見透かしているような表情で問い掛けてきた。
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