行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
「……誰か、居るの?」

 辺りも暗闇に包まれているので何も見えず、不安に駆られた私は弱々しい声で問い掛けた。

 すると、

「――止めとけよ、飛び降りなんて」

 そんな声と共に暗闇から一人の男の人が姿を現した。

 ちょうど翳っていた月が顔を見せ、その明かりがまるでスポットライトのように彼を照らす。

 背が高く、スタイルもいい彼は一瞬芸能人かと見間違うくらいに惹き付けられる。

 前下がりの刈り上げマッシュに少しパーマがかった黒髪、左の耳に一つ、シンプルなピアスが付いていて、中でも切れ長の瞳がとても印象的だった。

 そんな彼をよく見てみると、顔にはいくつもの傷があり、頬も少し腫れているだけではなく、右の唇の端は切れていて血が滲んでいる。

 そして、こちらへ近付いて来る途中、お腹を抑えながら顔を歪ませてその場に崩れ落ちていく傷だらけの彼を放っておけなかった私は急いで駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」
「……っ、ああ、平気だ……」
「平気って……血が!」

 抑えていたお腹の方に視線を移すと、スーツのボタンが外れて下に着ているYシャツが赤く染まっていることに気付いて思わず声を上げた。

「古傷が少し開いただけだ……問題ねぇよ」

 そう言いながらもやはり傷が痛むらしく、額には汗が浮かび、それがポタポタと垂れていく。

 私は手を伸ばして置いてあったハンドバッグを取ると、そこからハンカチを取り出して彼の額の汗を拭った。
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