行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
「辛い過去を忘れろ――なんて言われても、それは無理だろうけど、お前の辛かったこと全ては、あの屋上に置いてきたはずだ。ここでは新たな人生を歩んでく、そう気持ちを切り替えろ。大丈夫だ、ここに居る限り、お前の面倒は俺が見てやる。どうしようもなく辛いことや悲しいことがあれば、すぐに言え。お前はもう、一人じゃないから」
「……っ、ありがとう……ございます……ッ」

 八雲さんは、不思議な人だ。

 初対面なのに、私の気持ちを解ってくれる。

 私がして欲しいこと、欲しかった言葉をくれる。

 彼のような人に、私はずっと、出逢いたかったんだと思う。

 子供のように泣きじゃくる私を、八雲さんは抱き締め、頭を撫でて慰め続けてくれた。

 そして、彼の言うように、これまで辛かったこと、悲しかったことの全てを、その涙と共にさよならをして、これからは新たな気持ちで生きていこうと心に誓った。


「――落ち着いたか?」
「……っ、はい……すみません……」
「謝ることはねぇよ。泣いてスッキリしたようだな。表情が変わった」
「……八雲さんのおかげです。ありがとうございます」
「俺は別に、何もしちゃいねぇよ。さてと、そろそろ寝るか。流石に俺も眠い」
「そうですよね、すみません、付き合わせてしまって! あの、それじゃあベッドを使ってください! 私は眠くないので、起きてますから」

 気付けば時刻はもう午前四時を過ぎている。

 私はあまり眠くなかったこともあって八雲さんにベッドを使って貰おうと思い、ベッドから降りようとしたのだけど、

「駄目だ。お前もきちんと寝とけ。身体は疲れてるはずだから目瞑ってりゃ寝れるだろ」

 そう言って八雲さんに腕を引かれてベッドに戻され、強制的に布団を掛けられた。

 そして、

「悪いが、俺もここで眠らせて貰う。安心しろ、何もしねぇから。そんじゃ、おやすみ」

 八雲さんは私の隣に入り込むと、布団を掛け、こちらに背を向けて横になって『おやすみ』と言った。

 まさか同じベッドで眠ることになるなんて予想もしていなかったし、初めは緊張していたけれど、八雲さんが傍に居てくれて安心したのか、眠くないと思っていたけど本当は眠かったのか、いつの間にか眠ってしまっていた私はそのままお昼過ぎまでぐっすり眠ってしまうのだった。
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