行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
『若頭』という立ち位置の彼
「おはようございます……」
「おはよう心ちゃん。ぐっすり眠れたみたいだね」
「は、はい……寧ろ寝過ぎちゃって……あの、八雲さんは?」
「ああ、兄貴はとっくに出掛けたよ。っていうか、他のみんなも出掛けてる。残ってるのは俺だけだよ」

 お昼過ぎに目を覚ました私が一階のリビングルームに降りていくと、ソファーに座ってテレビを観ていた七星さんが居て、挨拶をした後で八雲さんの所在を尋ねると、皆出掛けたことを告げられた。

 考えてみれば、今日は平日なので普通は仕事があるなと思い、自分だけいつまでも寝ていたことを申し訳なく思いながら、七星さんに『何かすることはないか』と尋ねてみた。

「うーん、今のところは何もないかな。けど、兄貴からの伝言で、ひとまず心ちゃんにはこの家の家事を任せたいって。今朝の朝食とか洗濯掃除は俺がやっちゃったけど、夕飯からは心ちゃんにもやってもやおうかなって思ってるから、後で買い出しに出掛けようね」
「はい、ありがとうございます」

 どうやら私はこの家の家事を任されるようで、あとで七星さんと買い出し出掛けることになった。

 遅めのお昼ご飯にトーストとコーヒーを用意してもらった私はそれを食べ終えると、食料の買い出しがてら、私がこれから生活していくうえで必要な物一式の買い物もする為に自宅から少し離れた場所にある大型ショッピングモールへと連れて来られた。

「服とか下着とか、生活に必要な物は全て買うようにって兄貴から言われてるから、お金の事は気にしないで好きな物を好きなだけ買って」

 駐車場から店内に向かい、まずは洋服から見ようかという七星さんの意見に頷いた私は婦人服売り場が沢山ある二階へとやって来て、どこから見ようか悩んでいる横でそんな言葉が掛けられた。

「そんな、いくらなんでも好きなだけなんて……私、少しだけならお金もあるのでそれで買える範囲内にしますから……」

 そこまでの手持ちは無いけれど、服や下着数着くらい買える予算は持っているのでそれでやり繰りしようと思っていた私がそう口にすると、

「遠慮なんてしなくて大丈夫だよ、兄貴は稼いでるから、ぶっちゃけ心ちゃんの生活用品一式揃える程度、どうってこと無いからさ」

 私に気を遣ってか、それとも本当にそうなのかは分からないけれど、八雲さんの稼ぎは相当な額のようで、私が気にする必要は無いことを教えられた。
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