行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
「何なんですか? 貴方には関係ないですよね?」
「そりゃそうだが、この場に居合わせちまった以上、見て見ぬふりは出来ねぇだろ」
「……っ」
「俺は相嶋(あいじま) 八雲(やくも)。ここで会ったのも何かの縁だ。行く所がねぇなら俺に付いてこい」
「え……?」
「行き場がねぇんだろ? ならひとまず俺の家に来い。話はそれからだ」

 勝手に話を進めた彼――相嶋さんは痛む身体を庇いつつ立ち上がりながら自分に付いてくるよう言うけれど、私はその場に座ったまま動かない。

 相嶋さんの言い分が分からない訳じゃないし、見て見ぬふりが出来ないという言葉も分かるけど、私だって中途半端な気持ちで死のうと思った訳じゃない。

 覚悟を決めて、死のうとしたのだ。

 だからこそ、今更考えを変えるつもりは無かった。

「おい、早く立て」
「嫌です」
「本当はこんなとこから落ちる勇気もねぇくせに、意地張ってんなよ」
「――ッ!」

 その言葉に、私はカチンと来る。

 そんなことを言われる筋合いは無いし、そんなに言うなら、目の前で飛び降りてやろうと思った私は無言で立ち上がると、相嶋さんに背を向けてフェンスの向こう側へ歩いて行く。

「おい、お前何を――って、おい、いい加減に――」

 相嶋さんの制止を聞かずに縁まで歩いて来た私は彼に背を向けたままで段差を上がり、

「私はね、覚悟を決めて来たの! 生きてたって何もない! 辛いだけなの! だから、私のことは放っておいて!」

 そう叫び、瞳を閉じた私はそのまま身を投げた――はずだったのだけど……それは相嶋さんによって、阻まれてしまった。
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