行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
「ここが兄貴の部屋だよ。風呂は一階と二階の両方にあるんだけど、二階の風呂場は基本兄貴しか使ってないから、心ちゃんも二階のお風呂使いなよ。その方が気兼ねなく使えるでしょ?」

 部屋へ案内された私はドアの前でお風呂についての話を聞く。

 二階のお風呂は相嶋さんしか使っていないということなのに、本人の承諾も無く私が使わせてもらうのは申し訳無いと断ったのだけど、

「平気だよ、兄貴が自分の部屋を使わせるくらいだから、二階の風呂場を使うのも問題無いって。着替えとタオルは後から持って行くから、まずはシャワー浴びてくるといいよ。あ、それとも浴槽にお湯張ろうか?」
「いえ、シャワーだけで大丈夫です、お気遣いありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えてシャワー浴びて来ますね」
「うん」

 二階のお風呂を使っても問題無いだろうという渡利さんに従い、ひとまずシャワーを浴びて来ることにした。

 服を脱いで浴室へ入った私は、鏡に映る自身の姿を見つめながら溜め息を吐く。

「……私、何やってんだろ……」

 一人になって今一度冷静に状況を整理したことで、置かれている状況に頭を抱えたくなった。

 死ぬつもりで廃ビルの屋上へ上がったはずなのに、止められた挙句、今日会ったばかりの名前しか知らない男の人の自宅に上がっただけでは無く、こうして無防備にお風呂へ入っている訳で……、普通の思考なら、こんな状況有り得ないなと思ってしまう。
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