迷惑ですから追いかけてこないでください!
ダークパープルの髪にレモン色の瞳を持つ、長身痩躯の短髪の男性は、私たちに近寄ってきて会釈する。
「ミリアーナ様ですね」
爽やかな見た目だけでなく、耳に心地よい声で素敵です。
馬車に家紋が入っていることを確認し、相手が誰だかわかりました。
私はラシルくんの手を離してカーテシーをします。
「お初にお目にかかります。ミリアーナ・セブラスカと申します」
「兄がお世話になっています。キール・デファンです」
キール様はポッコエ様の弟です。婚約者の弟だというのに、私は彼とはあまり面識がありませんので、すぐには相手が誰だかわかりませんでした。
「キール様にお会いできて光栄ですわ。あのキール様にお話したいことがあるのです。いつか、お時間をいただくことは可能でしょうか」
「かまいませんよ。僕もあなたに話したいことがあって来たんです。立ち話もなんですから、馬車の中に入りませんか」
ラシルくんを見ると、私を見上げて頷いてくれました。
馬車の中に入り、ラシルくんと並んで座ると、キール様はラシルくんの向かい側に座りました。
行き先は繁華街だと告げると、御者は一度広い道に出てから方向を変えると言って馬車を走らせます。
「私の話は長くなりますので、先にキール様のお話からどうぞ」
「わかりました」
キール様は頷くと頭を下げた。
「兄が勝手なことをしてしまい申し訳ございませんでした。僕のことを嫌っていて、パーティーを失敗に終わらせたかったようです」
キール様は学園では寮生活を送っています。
卒業後は騎士団に入団したので、ポッコエ様とはほとんど接点がないはずです。
それなのに、どうしてポッコエ様はキール様を嫌うのでしょうか。
「婚約破棄のことは気にしていません。できれば慰謝料をいただけますと有り難いですが、相手が姉ですので諦めています」
「……今、両親に連絡をとっているところですが、慰謝料はお支払することになるでしょうし、今回はミリアーナ様に直接お渡しする形になると思います」
「それはとても有り難いのですが、いついただけるのでしょうか。実は、私は先ほど家から追い出されてしまったんです」
「追い出された?」
不思議そうな顔をするキール様に、ラシルくんに聞かせても良い部分だけ簡単に説明しました。
子供の前ですのでと前置きしたからか、キール様はなんとなくですが事情を察してくれたようでした。
「デファン公爵家が経営している宿屋がありますので、慰謝料の話が終わるまでは、そこに身を潜めてください。その間に僕もラシルくんのお母様の件を調べておきましょう」
「ありがとうございます」
厚かましい気もするけれど、ご厚意にしっかり甘えておくことにします。
それにしても、キール様とポッコエ様が兄弟だなんて思えませんね!
似ていない兄弟がいるとは聞きますが、外見も性格もここまで似ていない場合もあるんですね。
しかも、私のことをミリアーナ様と呼んでくれているので落ち着きません。
今は、公爵令息ではなく騎士として私に接してくれているということでしょうか。
もしくは、こういう性格なのかしら。
「うわっ!」
突然、馬車が急停止したので、ラシルくんが前に倒れそうになったところを、キール様が受け止めてくれました。
「あ、ありがとうございます」
「いや、それにしても君は……」
お礼を言ったラシルくんをキール様が抱き上げた時、御者が叫びながら扉を開けた。
「キール様、王城からの遣いの方が来られています!」
「王城から?」
ラシルくんを席に戻したキール様が聞き返すと、馬に乗った兵士が現れて報告する。
「大変です、キール様! 王太子殿下がお亡くなりになりました」
お、王太子殿下が!?
た、大変なことを聞いてしまったわ!
「ミリアーナ様ですね」
爽やかな見た目だけでなく、耳に心地よい声で素敵です。
馬車に家紋が入っていることを確認し、相手が誰だかわかりました。
私はラシルくんの手を離してカーテシーをします。
「お初にお目にかかります。ミリアーナ・セブラスカと申します」
「兄がお世話になっています。キール・デファンです」
キール様はポッコエ様の弟です。婚約者の弟だというのに、私は彼とはあまり面識がありませんので、すぐには相手が誰だかわかりませんでした。
「キール様にお会いできて光栄ですわ。あのキール様にお話したいことがあるのです。いつか、お時間をいただくことは可能でしょうか」
「かまいませんよ。僕もあなたに話したいことがあって来たんです。立ち話もなんですから、馬車の中に入りませんか」
ラシルくんを見ると、私を見上げて頷いてくれました。
馬車の中に入り、ラシルくんと並んで座ると、キール様はラシルくんの向かい側に座りました。
行き先は繁華街だと告げると、御者は一度広い道に出てから方向を変えると言って馬車を走らせます。
「私の話は長くなりますので、先にキール様のお話からどうぞ」
「わかりました」
キール様は頷くと頭を下げた。
「兄が勝手なことをしてしまい申し訳ございませんでした。僕のことを嫌っていて、パーティーを失敗に終わらせたかったようです」
キール様は学園では寮生活を送っています。
卒業後は騎士団に入団したので、ポッコエ様とはほとんど接点がないはずです。
それなのに、どうしてポッコエ様はキール様を嫌うのでしょうか。
「婚約破棄のことは気にしていません。できれば慰謝料をいただけますと有り難いですが、相手が姉ですので諦めています」
「……今、両親に連絡をとっているところですが、慰謝料はお支払することになるでしょうし、今回はミリアーナ様に直接お渡しする形になると思います」
「それはとても有り難いのですが、いついただけるのでしょうか。実は、私は先ほど家から追い出されてしまったんです」
「追い出された?」
不思議そうな顔をするキール様に、ラシルくんに聞かせても良い部分だけ簡単に説明しました。
子供の前ですのでと前置きしたからか、キール様はなんとなくですが事情を察してくれたようでした。
「デファン公爵家が経営している宿屋がありますので、慰謝料の話が終わるまでは、そこに身を潜めてください。その間に僕もラシルくんのお母様の件を調べておきましょう」
「ありがとうございます」
厚かましい気もするけれど、ご厚意にしっかり甘えておくことにします。
それにしても、キール様とポッコエ様が兄弟だなんて思えませんね!
似ていない兄弟がいるとは聞きますが、外見も性格もここまで似ていない場合もあるんですね。
しかも、私のことをミリアーナ様と呼んでくれているので落ち着きません。
今は、公爵令息ではなく騎士として私に接してくれているということでしょうか。
もしくは、こういう性格なのかしら。
「うわっ!」
突然、馬車が急停止したので、ラシルくんが前に倒れそうになったところを、キール様が受け止めてくれました。
「あ、ありがとうございます」
「いや、それにしても君は……」
お礼を言ったラシルくんをキール様が抱き上げた時、御者が叫びながら扉を開けた。
「キール様、王城からの遣いの方が来られています!」
「王城から?」
ラシルくんを席に戻したキール様が聞き返すと、馬に乗った兵士が現れて報告する。
「大変です、キール様! 王太子殿下がお亡くなりになりました」
お、王太子殿下が!?
た、大変なことを聞いてしまったわ!